73〜74冊目 『夏姫春秋(上・下)』

夏姫春秋(上) (講談社文庫)

夏姫春秋(上) (講談社文庫)

夏姫春秋(下) (講談社文庫)

夏姫春秋(下) (講談社文庫)

「歴史上の女性をすごく魅力的に書いている作品を教えてください!」の質問からの作品リストより、トップバッターはこちらを選びました(そろそろ宮城谷さんを読みたいと思っていたので)。
以前読んだ『重耳』の後の時代という設定で、とっつきやすい点もありましたからね。
中国の春秋時代、重耳こと文公亡き後の晋はやや国力が衰え、代わりに国力を伸ばしてきたのが南の楚。ちなみに中盤は楚の名君で春秋五覇の一人に数えられる荘王が主役という感じです。


大国・楚と晋に南北を挟まれる小国・鄭の姫である夏姫がヒロインです。
すでに少女の頃から男を惑わす美貌と従順な性格の為に、本人の意思とは関係無く、大人の欲望や政治的な思惑に利用される人生を送らざるを得なくなります。
どちらかというと受身であった夏姫が、自分の意志で行動し始めるのが、我が子の将来のためを思ってなのですが、そのために夏姫だけでなく周囲の人間まで人生が大きく変わっていってしまう・・・。


夏姫が関わる鄭と隣国・陳といった小国の苦悩や内部の争い、晋や楚による戦い・駆け引きがダイナミックに描かれています。
この時代はまったく知らなかった私ですが、宮城谷昌光の著作のおかげで面白さを知ることできました。


さて歴史ロマンというと、英雄と美女の話はよく聞きますが、この作品を読むかぎりは夏姫のような絶世の美女であるというのは、良いことばかりでないなぁと思いますねぇ。
政治家として優れた素質を持っていたと思われた息子が無残に殺され、関わった男達はやがて死んでしまったり、没落してしまうという結末を迎えます。


それを救ったのは、楚の巫臣(ふしん)という人物でした。
夏姫に対して一目惚れに近い感情を抱いたのに、直接彼女を我が物にしようとするのではなく、「夏姫は凶である」などと脅してライバルを退けたりとやや屈折してますね。
堂々と夏姫を妻に迎えるために数年がかりの深謀遠慮をめぐらせるのですが、結果的に楚の宰相の地位を投げうってしまいます。
亡命先の晋の大臣から「1人の女に迷われましたか」と言われ、「いいえ。救ったのです。1人の女性を救えずして、国家を救えましょうか」と返すあたりは大した人物です。