9冊目 『海の牙城2 サイパン沖海戦』

海の牙城〈2〉サイパン沖海戦 (C・NOVELS)
作者: 横山信義
出版社/メーカー: 中央公論新社
発売日: 2006/02
メディア: 新書

『海の牙城』シリーズの興味深い点はは、昭和19年前半という史実ではもはや日本の敗勢は動かしがたかったのに比べて、本シリーズでは戦力の消耗を抑えられて数段ましな状況でどう戦っていくかというところだ。
今回はマリアナ戦が舞台ということで、『修羅の波濤』シリーズを思い出したが、あちらでは確か昭和19年の段階では欧州での某重大事件が勃発して、もう講和と内戦への話が進んでいっていた気がする(手元に無いので確かではないが)。
本シリーズではドイツが史実よりやや優勢でソ連が負けているということ以外、たいして触れられてない*1ので、日米を徹底的にやらせるような気がする。


そんな中、やはり横山先生、いつもの通りに日本軍はすんなり勝たさずにさんざん苦しめてくれる。それでも既刊シリーズに比べればマシだという印象もある。酸素魚雷がよく当たるってこととか(^^;
せっかく満を持して登場の「烈風」も「F4Uコルセア」に苦しめられているし、日本海軍戦艦の受難ぶりは相変わらずだし、メインの役を担っているはずの「空母武蔵」はボロボロにされるし・・・。でも今回も「大和」は中破しながらも、おいしい役でもあったのでやっぱり別格かな、と。


まぁ、当時の国力を無視した要素はなるべく出さず、日本軍の体質的弱さはそのままに、この時代の架空戦記ストーリーを考えていくのが横山信義の良さでもあり、そして越えられない(わざと越えない?)壁なんだな。
『八八』や『蒼海の烈兵』あたりでは強引な展開も目についたが、『烈日』・『虎口の海』あたりからそれなりの見せ場も作って、いい作品になってきているなと思う。
口さがない2chの某スレでは『遠き曙光』を横山版パシフィックストームなどという書き込みがあったが、きっと新作が出ないことから来る嫉妬・羨望に違いない。うん、それならわかるよ。全くそそられる世界観と魅力的なキャラ作って、ストーリーは途中でほっぽり出すなんて(つД`)*2


おっと、話がそれたが、次巻の期待は18試局戦と山本五十六の遺産なのだが、後者はGF参謀の顔が凍りついたくだりがあることから、やはり本シリーズでは幻にならざるをえなかったあの作戦か?
戦況的に強襲にならざるをえないから、うまくいくわけないだろうと思わせといて、作者はきっと何か妙案を考えているに違いない。
例えば、今度こそ更迭されたスプルーアンスに代わって、空母部隊の指揮官に復帰したハルゼーが、何らかの囮につられて「ブルズ・ラン」をやるとか、米軍による暗号傍受の事実を知った海軍の諸葛孔明こと小沢提督がひとつ策略を練るとか。
待てよ、攻勢がメインとなると、18試局戦(名前は震電かなぁ)の見せ場は?マリアナ防衛に間に合うのか?
ともかく2ヶ月後(期待通りのペースなら)が楽しみ〜。

*1:それが不満点でもあるのだが、欧州状況は外伝を期待!

*2:横山信義を知っている人なら、嫌でも知っているであろう御大こと佐藤大輔のことを言っている。かつての豪腕作家は遅筆作家となり、そして今は・・・何をしているんだろう?