10冊目 『秘密』

秘密 (文春文庫)
作者: 東野圭吾
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2001/05
メディア: 文庫

切ない、まことに切ない物語である。映画も見て感動した憶えがあるが、小説の方が平介と直子の苦悩がよくわかる。私が男でありそして父親あるせいか平介の辛さが身に染みる。女性であれば、むしろ直子の決断に思うところがあるのではないか。
こういっては失礼だが、事故で妻が亡くなり娘が残されただけならば、自分は辛くとも今後は娘の為に生きていこうと覚悟できる。しかし娘の体に妻の精神が宿るというあり得ない状態に置かれた不安定な生活はどうなんだろう?自分がその立場に置かれてみると、どんな精神状態になるのだろう?そんなことを気にしながら読んだ。娘が成長するにしたがって、平介は精神的に追い込まれる。そのあたりが映画はややコミカルであったが、小説の方がより深刻な描写だ。
ストーリーはわかっていても最後のシーンは涙ものである。映画も良かったが、小説を読んで、平介と直子の誠実さや家族への思いやりに心を打たれた。