12期・13冊目 『フリーター、家を買う』

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

内容紹介

就職先を3ヵ月で辞めて以来、自堕落気儘に親の脛を齧って暮らす“甘ったれ"25歳が、母親の病を機に一念発起。バイトに精を出し、職探しに、大切な人を救うために、奔走する。本当にやりたい仕事って?自問しながら主人公が成長する過程と、壊れかけた家族の再生を描く、愛と勇気と希望が結晶となったベストセラー長編小説。

社畜精神を叩き込むような研修を始めとして、何となく自分に合わないというだけでせっかく就職した会社を3か月で退職。
その後はバイトをしながら再就職先を探すもたった3か月で辞めてしまったことが最大のネックとなってなかなか見つからず、バイト先も長続きしなくなり、家の中でも口うるさい父とも折り合い悪くなる一方。
次第に引きこもりに近い生活を送るようになった主人公・武誠治はわざわざ部屋まで食事を運んでくれていた母の異変をようやく知ります。それも結婚して家を出ていた姉による手抜きメニュー(カップラーメンなど)によってでしたが。
医者の妻ということで、姉から母が重度の鬱に陥っていることを知らされます。
それは長年の近所からのイジメが根源にあって、更に最近の誠治や父による家庭内不和が重なって自殺を考えるようになってしまうほどに悪化していたと知り、誠治は愕然とします。
姉にせっつかれて急ぎ医者に連れていき、定期的な薬の服用や通院が必要になったのですが、ここで最大の障害となったのが父の無理解。
そもそもが悪酔いする父のせいで近所と折り合いが悪くなったのに本人は鬱など甘えだと断じて姉と主人公の言うことなど聞きません。
そこで主人公は自分がしっかりしなければ、とようやく一念発起することになったのでした。


見てはいないですがドラマ化されていたこともあり、タイトルだけは以前から知っていた作品。
例によって設定はともかくドラマとは内容は全然違うようですね。
それでタイトルからして、何らかの事情で家を失ったフリーターが家族のために大金を稼いで家を買う、みたいなイメージがあったのですが、いわば客寄せ文句みたいなもので、内容としては親の脛を齧っていたニート一歩手前の青年が貯金のために夜間のきついバイトを続けつつ、就職活動を再開。
周囲の人間に助けられつつ無事に就職、家族との人間関係を再構築しながら仕事を頑張り、母の鬱病の最大の原因であった今の家を引き払い、新たな家(環境)を二世代ローンで購入するというストーリーになっています。
家族と仕事を軸にしたいまどきの青年の成長物語といえましょうか。
ブラック気味とはいえ、会社を3か月でドロップアウトしてしまうような青年が旧態依然の中小企業とはいえ事務全般(かつ将来的に経理担当になるための勉強もしながら)を取り仕切るようになるほど優秀な人材に成長するとは出来過ぎな気がしなくもないですが、前半のダメダメさに比べたら、後半の躍進は心地よいものでもあります。
フリーター時代に知り合った人たちを始めとして、基本的に登場するのはいい人たちばかりなので、前向きになった主人公の活躍を安心して読める分、刺激が少ないかなという気はしましたが。
最後の一章は書き下ろしで追加されたようですが、真面目で不器用な二人が少しずつ距離を縮めていくところや、ようやく主人公が別の意味で親孝行できそうな気配が微笑ましかったですね。