12期・47冊目 『箱庭旅団』

箱庭旅団 (PHP文芸文庫)

箱庭旅団 (PHP文芸文庫)

内容紹介

「とにかく旅に出ることだ。世界は本当に広い……今のこの世界だけでも広大無辺なのに、昔や未来、作られたものの世界まで数に入れたら、本当に無限だよ」――それぞれの世界を「箱庭」に見立て、短篇の名手が紡いだ物語が詰まった一冊。
白馬とともにさまざまな世界を旅する少年は、物語にあふれた世界で、さまざまな「出合い」を経験する。“出る"と噂の部屋(「ミッちゃんなんて、大キライ」)、みんなから愛された豆腐売りの少年(「黄昏ラッパ」)、世の中の流行を決めるマンモスに似た生き物(「神獣ハヤリスタリ」)、ある女性編集者の不思議な体験(「『Automatic』のない世界」)、雨の日だけ訪れる亡くなった孫(「秋の雨」)、ぐうたらな大学生二人の奥義(「藤田クンと高木クン」)、サンタクロースにそっくりの獣医(「クリスマスの犬」)などなど。
『かたみ歌』で読者の涙を誘った直木賞作家による、16篇のショート・ストーリー。懐かしくて温かい気持ちになれる連作小説集。

プロローグで自身で作った箱庭で遊んでいた8歳の少年は失踪したシーンが描かれますが、その少年は白馬にまたがり、世界のあちこちを見に出かけたことが示唆されます。
そうして、お化けや怪現象といった様々な不思議な話を集めた短編が始まります。


「ミッちゃんなんて、大キライ」
収入が減ったことに加えて、ホラー作家志望として曰くつきの物件に興味があった主人公は、理由はないが幽霊が出る、というアパートに引っ越したのだが、どういうわけだか本人は遭わないのに周りの人だけが”ミッちゃん”という霊と親しくしているらしい。
オツベルと象と宇宙人」
タイトル通り、オツベルの経営する工場にやってきた宇宙人と象の話。
「暗闇カラス丸」
母子家庭にて、母は夜に働きに出ており、一人留守番している男の子。そこに全身黒ずくめん男がやってきた。男の子の友達が言っていた暗闇カラス丸という怪人を彷彿させる男は意外なことを話しだした。
「一冊図書館」
海辺にひっそりと建っているいる一軒家。そこに住む女性に憧れを抱いた少年はある日勇気を奮って訪れてみる。その奥の部屋には書庫となっているのだが、一冊しか置いていなかった。
「さきのぞきそば」
仕事も恋もうまくいかなくて落ち込んでいた主人公は偶然見かけた蕎麦屋でメニューの端に書いてあった”さきのぞきそば”を頼んでみる。
来たのは何の変哲もない蕎麦であったが、食べている途中に不思議な会話を耳にする。
「秋の雨」
孫娘を事故で亡くした老婦人の古びた自宅には、雨の日になると子供の足音が聞こえてくる。彼女はそれを孫がお気に入りの玩具を探しにきたのだと思っていた。
「クリスマスの犬」
俺俺詐欺で大金を手に入れた男。昨日までの貧乏暮らしとおさらばして、その金を何に使おうかウキウキしながら考えていた。
そんな男の前に子犬が現れて、つい出来心で構ってしまうのだが…。
「『Automaic』のない世界」
筆者が若き女性編集者から聞いた不思議な話。
その女性は非常に家族の仲が悪くて嫌な空気がたちこもる自宅が嫌になってプチ家出をした。そうして彷徨っている内に、いつの間にか少し違うが見覚えのある自宅の近所に辿りついて、家の中に入るのだが…。
「夜歩き地蔵」
昭和の前半、ミシン工場で働いていた若い女工の仲良し3人組の休日の楽しみは近場のハイキング。
そんなある日、ある山の尾根付近で不思議な地蔵を見かけて近寄ろうとしたが、地元の老人に止められる。どうやらそれは本当の地蔵ではなく、妖怪の類だと言うのだ。
「神獣ハヤリスタリ」
30過ぎても売れないストリートミュージシャンの主人公。ある日、不思議な初老の男と意気投合し、男から将来何が流行るか知ることができると聞き、深夜に待ち合わせの場所へと行ってみた。
「藤田クンと高木クン」
貧乏学生のアパートに友人が転がり込んで、暑い中でダラダラ過ごしていた。
家主がもたれかかっている背中の壁の向こうからは隣の部屋のカップルの喧嘩の声が聞こえてきていたのだが…。
「黄昏ラッパ」
知恵遅れではあったが、真面目で誠実な人柄な豆腐売りの青年は街の皆に親しまれていた。そんな彼が交通事故で車に跳ねられてしまう。運転手は青年が信号無視したと言い張るが…。
「夕凪のころ」
砂浜を歩く男女ははっきりしない(健康上か?)が、互いに思いを残しながらも別れを惜しむ。
「七号室の秘密」
あるアパートで大家代わりの女性がそこに住みついている幽霊のミッちゃんとの出会いについて語る。
「月の沙漠」
白馬に乗った少年は多くの世界を旅する途中で月の沙漠を往く王子と王女に出会う。




実はプロローグで旅立った白馬に乗った少年が世の中の各地を旅して各物語の登場人物に扮していたり、始めの方で行方がわからなくなった人物が後で登場したりと明らかに繋がりがあるようです。
少なくとも「ミッちゃん」と一冊図書館の本に魅入られた姉はわかったのですが、自分が気づかないだけで、他にもあったのかも。
「暗闇カラス丸」と「『Automaic』のない世界」はその後が非常に気になるし、「さきのぞきそば」や「クリスマスの犬」のように、いい話だなーで終わるのもあれば、「秋の雨」や「黄昏ラッパ」のように哀しい余韻を残している話、と様々です。
そんな中で二人の貧乏学生の会話だけで進む「藤田クンと高木クン」はなかなか絶妙。
果たしてどっちが藤田クンと高木クンなのかは気になりますが。
そういえば、変わったTシャツを集める趣味の大家さんとか、サンタクロースそっくりな獣医とか、ユニークな脇役にも惹かれました。
繋がりは不明ですが、「夕凪のころ」はやむを得ない事情で別離に面した恋人の切ない情景が浮かんで、なんとなく沢田知可子の『会いたい』を思い出しましたね。