11期・38冊目 『ウロボロス・レコード3』

内容(「BOOK」データベースより)

「残念だけど、僕にも出来ることと出来ないことがあるんだよね」。絶望の中で救いを求める少年に対し、錬金術師トゥリウスは宣告する。大陸東方の樹海の奥。そこにはエルフたちの小さな隠れ里が、凶悪な魔物や欲深い冒険者から逃れるようにして、ひっそりと存在していた。ある日、男勝りなエルフの少女バーチェは、里の掟を破り単身で狩りに赴く。しかし彼女は、迂闊に獲物を深追いしたことで、強力な魔物サイクロプスに遭遇してしまった。絶体絶命の窮地に陥るバーチェ。あわやというところで彼女を救ったのは、ドライと名乗る謎の女ダークエルフだった。その日を境に、彼女を取り巻く環境は一変するのだが―。

エルフの女性としては珍しく弓矢を得意とし、その日も森を荒らす大猪を追っていたバーチェは長い追走の末に首尾よく仕留めたものの、深追いしすぎて結界で覆われたエルフの森の外、魔物たちのテリトリーまで出てしまっていたことに気づきます。
そこに強力なる単眼の巨人サイクロプスが現れて、もはやこれまでと思ったところで眼帯をしたダークエルフ女性に救われるのです。
彼女におかげで無事一晩を過ごせたバーチェですが、集落へ帰ったところで森を出てしまったことによる長老からの叱責や幼馴染との諍いなどがあって落ち込んでしまう。
そしてその晩、エルフの集落はなんらかの手段でか結界を素通りした強大な魔物たちの襲撃を受けてしまいます。
その中にはバーチェを助けたはずのダークエルフ”ドライ”が魔物の集団を率い、レッサーデーモンを配下に従えるヴァンパイア・ロード、さらには今回が初の実戦となる№5フェムの姿がありました。


ザンクトガレンの深い樹海の中にて任務を遂行していたドライの偶然の邂逅を奇貨として、急遽実施されたエルフ狩り。
それは不老不死を願うトゥーリウスにとっては長寿を誇るエルフの素体を手に入れるためと、新たに造られた精巧なる自律型ゴーレムのフェムの戦闘実験を兼ねていました。
前半は追いつめられるエルフ側の視点なので、そこには希望や救いはなく苦しみと絶望のみ。
ひたすら暗く重苦しい雰囲気が続くところがダークファンタジーの本作らしいところでしょう。
Web版より心情描写が増しているようで、展開が早いラノベ風が主流のネット小説原作の中でも重々しく丁寧に書かれているのが個人的に好みですね。


後半は着実に進む領内の要塞化と、その反面なかなか進まない不老不死研究。
そして内政面で成果を挙げてきた領内に対して他の貴族たちの密偵という触手が伸びてくる。果たしてそれらの背後にいるものは?
ただひたすら自領に籠って研究を進めたいトゥリウスなのに、政治という煩わしい世界での対処を余儀なくされそうな展開へと繋がります。
洗脳されているとはいえ、能力を活かすために基本的な人格はそのままとされている部下たちとのやりとりが面白いです。
唯一洗脳に対する忌避感を持つ武官ドゥーエのストレスが溜まる一方なのがちょっと気がかりな気がしますがね(野盗狩りで発散しているけど)。
そしてエピローグでは、辺境送りが功を奏しなかったために、トゥリウスを嵌める次の手を打とうとする兄ライナスやラヴァレ侯爵の暗躍も始まる気配で幕が下り、今後の波乱への期待が高まりますね。