9期・8冊目 『天使の耳』

天使の耳 (講談社文庫)

天使の耳 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か。死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべき方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。

交通課の警察官による視点の交通事故をテーマにした短編集となります。
収録作品と内容は以下の通り。


「天使の耳」
深夜の交差点での車同士の衝突事故。
双方が信号が青だったと主張するが、死亡した側の同乗者は目の見えない少女。
しかし驚異の聴力と記憶力で青であった根拠を出してきた。
目が見えないなど障害を負う人は、その分別の感覚が普通の人より発達するというのはよく聞く話。
それを生かしたアイデアですが、単なる武勇伝的勧善懲悪として終わらなくてちょっと意外な結末でありました。


「分離帯」
長年無事故無違反だったトラックのドライバーが急ブレーキ後、スリップして分離帯に乗り上げ死亡した。
すぐ後ろを運転していた男性によると、直前に路上駐車の車が方向指示も出さずに出ようとしていたらしい。
歩行者の危険行為(信号無視など)や夜間の路上駐車が事故を招くことがあります。
それでも厳しく処罰されるのは走行中の自動車側。*1
どうも学校の交通安全教室や教習所からやり直した方がいいよな、と思える人は確実にいるわけで…。
あと運転している身としては、トラックなどの大型車による死角は結構大きいよなと思ったり。


「危険な若葉」
夜の抜け道を走っていた男が前方の初心者マークの車を煽って自損事故に追い込んだ末に逃げた。
事故に遭った女性は一時記憶を失くしていたが、記憶を取り戻すと前から自分は狙われていて、殺されるところだったと驚きの告白をする。
危険な運転をして怪我をさせた男が恐怖のお返しされてしまうという、ある意味すーっとする話。こればかりは自業自得デスヨネー。
まぁ煽られたら止まってでも道を譲るのが吉。


「通りゃんせ」
狭い通りに路駐していた男の車が傷をつけられていた。
当て逃げかと諦めかけていたが、意外にもぶつけた本人が謝罪と賠償を申し出てきた。
それ以来、なぜか何度も会っては親しみを見せるようになる。
ずらーっと並ぶ迷惑駐車のせいで立ち往生してしまう救急車のCMを思い出します。
自分が同じ立場にならないと迷惑かけていると感じないんだろうなと。
甘いかもしれないが、復讐に徹しきれなかったこの結末の方が救いがあっていいと思います。


「捨てないで」
高速道路を走行中に前の車から投げ捨てられた缶が直撃して同乗の婚約者が失明する大けがを負う。
現物の缶の他には車種しかわからないままで犯人捜しを行うが…。
二重の意味での”捨てないで”。
ただ冒頭の事故がオープンカーだったのか窓全開だったのか不明だけど、高速道路という点で違和感。


「鏡の中で」
深夜の交差点で右折しようとした車が、交差する道路側の赤で止まっていた原付バイクに衝突するという事故が発生。
加害者も運転ミスを認めていて問題は無いはずだが、調べた上でいくつか不審な点が浮かび上がる。
事故原因としては盲点を衝く一作です。
そして普段の運転の習慣というのはいざという時に出るものだと確かに思わされました。


どの話もマナー違反から明らかに法律違反していたレベルまで様々ですが、過失があって加害者と被害者が登場します。
でもただの勧善懲悪ではなく、時に加害者と被害者が逆転したり、特別な事情が明らかにされたりとストーリーの捻り具合が巧妙でしたね。
突然巻き込まれることで日常が一変してしまうのが交通事故。
それだけに短いながらもインパクトある内容の短編集でした。

*1:今は多少変わってきてはいるかもしれないけど