9期・4冊目 『戦国スナイパー 信長との遭遇篇』

内容紹介
突然戦国時代に一人放り込まれた陸上自衛隊員・笠間慶一郎二等陸曹。彼がたまたま命を助けたのはあの織田信長! 狙撃手としての腕を買われた慶一郎は信長配下の武将・佐々成政の下で鉄砲隊の編制を任され、さらに信長を狙う刺客たちとも死闘を演じる……。慶一郎は銃一丁で戦国の世を生き抜けるのか――?

自衛隊が戦国時代へタイムスリップと言えば、和製タイムスリップものの代表作と言うべき『戦国自衛隊』がまず思い浮かびますが、こちらはなんとたった一人でタイムスリップしてしまうというお話なんです。
陸上自衛隊員・笠間慶一郎二等陸曹は狙撃手として練習の腕はいいが、実戦となると手が震えて撃てない。
たまたま害獣駆除の依頼があって、渡りに船とばかりに実弾訓練も兼ねてフル装備で参加したわけですが、岐阜の山中を歩いていたところに時代劇風の人物たちの凶行を目撃。
これが撮影ではなく、本当に人を殺していると確信した慶一郎は阻止に出るのですが、なんとたまたま命を助けたのはあの織田信長だったという。
その縁で織田家に召し抱えられて現代の知識をもとに活躍・・・とはいかずに様々な人と出会い、トラブルに巻き込まれたりなんだりして佐々成政配下の陣夫として働くことになって戦に駆り出され、急場しのぎで射撃技術を披露したことで結局織田信長のもとで働くことになるというストーリーになっています。


自衛隊員としての技術・装備は戦国の世からすればチートそのものでしょう。
戦国自衛隊』のように一つの合戦どころか、やりようによっては歴史を大幅に変えられるレベル。
だけど本作でタイムスリップしたタイムスリップした笠間慶一郎は中身はごく普通の現代日本人であり、人を傷つけるのに抵抗あったり、教科書程度の歴史知識しかないが歴史を変えてしまうことの怖さを持つ等身大の主人公として描かれているので親近感が湧きますね。
ただ戦国人としてはもっとも近しい関係である”さくら”*1がいかにもラノベ風のツンデレ属性であり、慶一郎と普通に現代風な会話ができちゃったり、織田信長佐々成政が話のわかる武将*2だったりするところで軽さを感じたりもしました。
自衛隊出身の作家だけあって現代兵器や技術について細かいの当たり前ですが、それだけでなく戦国の軍事常識を慶一郎が受けるカルチャーショック(例えば戦場での携行食など)としてさりげなく書かれているのが面白かったですね。
意外と時代考証はしっかりしていることがわかります。*3
信長と出会ってから仕えることになるまでが遠回りのように思えますが、戦国の世に慣れ自衛隊の装備に頼らず火縄銃の工夫を思いつくまでの期間であり、そして意外な人物が関わっている伏線まで用意してあったりして感心させられました。
これは当然続編も読んでみたくなりましたね。

*1:信長のもとで護衛・偵察任務などに携わり忍びの術も使うが本人は侍と言い張る

*2:鉄砲という特技を持つ上に我欲が少ない慶一郎が織田家には合うのだろうが

*3:チョイ役として太田牛一を登場させたのは「信長公記」も参照しているってことの表れだろうか