2期・5冊目 『信長の戦争―『信長公記』に見る戦国軍事学』

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

織田信長は“軍事的天才”だったのか?桶狭間の奇襲戦、秀吉による墨俣一夜城築城、長篠合戦の鉄砲三千挺・三段撃ち。これまで常識とされてきたこれらの“史実”は、後世になって作られたものだった―。信長研究の基本にして最良の史料である『信長公記』の精読によって、信長神話と戦国合戦の虚像、それらを作りあげた意外な真実に迫る意欲作。」内容(「BOOK」データベースより)

まぁこの文章はちょっと煽りが入っていますが、織田信長が好きであろうとなかろうと、戦国時代に興味を持ち、固定観念にとらわれずに知識を吸収したいという人向けですね。

基本的に太田牛一信長公記』をベースに、時々小瀬甫庵信長記』他の記述も比較して検証しています。
よく史料では時代が下るほど信頼性が落ちるとは言われますが、太田牛一小瀬甫庵の間には生まれはせいぜい40年ほど違うということに加え、実際に戦に参加した当事者と後世の歴史作家という大きな違いがあったのです。
サブタイトルに戦国軍事学(元はこちらが本題)とありますが、まさに戦国時代ゆえに戦国の常識というものがあったんですね。小瀬甫庵の方は作り物としては巧くできているけど、そこが抜け落ちてしまっていることが指摘されています。
作成の意図として、『信長公記』は筆者が知る範囲で記録した手記であるのに対し、甫庵『信長記』の方はそれを元に面白いように色付けして一般向けの小説に仕立て上げた、と。
戦闘手記が事実を淡々と記しているので簡潔で要を得てはいますが、さほど面白みはありません。小説の方は作者の力量次第で読み手を感動させ、うまくすれば時代を超えて広まります。
何年も前に信頼できる史料としての『信長公記』の名は見知っていたのですが、やはり自分自身小説による影響は否めません。


本作を読んでみると、実際にその時代に同じ立場に立たされた場合に、一般に流布されている説の通り行動することがいかに荒唐無稽かがよくわかります(千人ずつ並んでの鉄砲三段撃ちなど)。これも筆者自身の実地でのフィールドワークも含めた調査の賜物なのですが、結構目から鱗的なことが多かったですよ。
個人的には、桶狭間の戦いミッドウェイ海戦に例えたあたりが妙に納得いきました。


これによって、織田信長の印象は多少変わりましたが、今まで通り好きな武将であることは変わらないですね。徹底的に基本に忠実であり続ける意志を持つというのも、並大抵のことではないですからね。


【追記】
本棚を整理していたら、藤本氏の共著『武功夜話の研究』が出てきました。そういえば昔買ったのだったなぁ。『武功夜話』をベースにした作品は多いらしいですけど、この本によるといろいろと疑わしい部分があるという内容だった気がします。

偽書『武功夜話』の研究 (新書y)

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