7期・72冊目 『八八艦隊海戦譜 開戦篇』

八八艦隊海戦譜 - 開戦篇 (C・NOVELS)

八八艦隊海戦譜 - 開戦篇 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)
欧州で勃発した第二次大戦の炎は、独伊と軍事同盟を結ぶ日本にも及び、ついにアメリカは日本に宣戦を布告。太平洋のジブラルタルと呼ばれ、日本海軍最大の根拠地として知られるトラック環礁に、アメリカ太平洋艦隊のレキシントン級巡洋戦艦六隻を擁する艦隊で奇襲を仕掛けた。日本軍は、紀伊型戦艦「尾張」「紀伊」「駿河」「近江」、加賀型戦艦「土佐」「加賀」、長門型戦艦長門」「陸奥」の四〇センチ砲搭載艦を以て、これを迎え撃つ。著者の原点ともいうべき「八八艦隊物語」が、二〇年の時を経て、いま堂々の再出撃。

横山信義氏の出世作と言える『八八艦隊物語』はリアルタイムで読んでいた私です。本シリーズはその筆者自らのリメイクとなります。
今までのシリーズものを読み終えるたびにたまには太平洋戦争以外をテーマにしてほしい〜と書いてきましたが、そのこだわりもここまで来るとさすがとしか言いようがありません。よほど太平洋戦争、それも大鑑巨砲主義が好きなんだなぁと(笑)
大鑑巨砲主義が幅をきかせているという世界観、そして日露戦争では日本海海戦の圧勝と陸上戦の大敗によって海軍の発言力および予算が大幅に偏るようになったという設定は前と同じですが、肝心の艦艇の設計思想など細かいところで変えてきてますね。
例えば本作世界で結ばれたストックホルム条約では、日本の八八艦隊が認められた代わりに補助艦艇がかなり制限されています。
その影響を受けたのが重巡であり、この世界の日本海軍では砲雷分離によって重巡には雷撃能力は無しになっている。
アメリカのサウス・ダコダ級が23ノットと鈍足で、レキシントン級巡洋戦艦と差があったり。
今後の展開に何かと影響があるのだろうなと思わせるような設定変更がありますね。


ところでストーリー的には史実と同じように欧州にて第二次世界大戦が開始され、ナチスに占領されたフランスの傀儡政権の要請によって行われた日本の仏印進駐がアメリカの石油などの禁輸を呼び、日米の対立は深まる。。
このあたり実際に起こったことをなぞっているとはいえ、やはり外交的な主導権を他国に握られたまま戦争へと突き進んでいってしまった気がしてなりません。
もっとも”世界の警察官”たるアメリカの正義の暴力の前にはいずれ日米衝突は避けられなかったでしょうが。
そうして始まった日米戦。詳しくは書きませんが、日本側、特に嶋田繁太郎*1GF長官の冷静沈着ぶりが意外でしたねぇ。
中部太平洋にて西進してきたアメリカ艦隊を迎え撃つという日本の計画通りにことが進んでまずは一勝です。


日米とも多少役者が違うので先が読めませんが、緒戦の勝利によって日本の慢心と油断(+アメリカの戦略見直し)が見られるのでしょうか。
まずは20年ぶりのリメイクということで、その間の経験や知識が生かされた新たな八八艦隊の物語を楽しみにしていきたいと思います。

*1:今までの氏の作品ではどちらかというと悪役