7期・60冊目 『アマルフィ』

アマルフィ

アマルフィ

内容(「BOOK」データベースより)
ギリシャ神話の英雄ヘラクレスは、愛する妖精の死を悲しみ、世界で最も美しい地にその亡骸を埋めて街を作った。その街の名は―アマルフィ。まさしく我々が命を懸けるに相応しい作戦名だった。ローマで日本人少女が誘拐。真相を追い、外交官黒田がイタリアを駆ける。サスペンスの名手真保祐一が書き下ろす、エンターテイメント小説の新境地。

3年前にいろんな意味で話題となった映画『アマルフィ 女神の報酬』。その製作に参加した真保裕一が初期プロットを活かして書きあげた、原作というよりは別物の小説であります。
前に下記の記事を読んで、映画はどうでもいいが(笑)、小説は読んでみたいなと思っていたわけです。
破壊屋_アマルフィ 女神の報酬


外交官研修時代に大使の汚職を摘発しようとするなど役人としては風変わりな経歴を持つ黒田康作は、紆余曲折の末に特命で主に大使館警備問題を担当することになった特別領事。
そんな彼がクリスマス間近のイタリア・ローマに赴任したのと同じタイミングで日本人少女が誘拐される事件が起こります。
すぐさま現場に駆け付けた黒田は、母親宛てにかかって来た犯人からの電話にたまたま出たことから父親役*1として演技することになり、外務大臣来訪・視察などに伴う大使館の仕事よりも、邦人保護という名目を優先して誘拐事件に積極的に関わっていきます。
指定された身代金受け渡し地であるアマルフィ行きはもとより、監視カメラ映像の偽装工作を疑い、関係者に当たったり大手警備会社・ミネルヴァ*2の本社に乗りこむなどまさに東奔西走。
そうしていくつかの出来事を経ていく内に、誘拐は囮で犯人の目的は別のところにあるのではないかという疑惑が浮かび上がっていくわけです。


多額の製作費をかけた割にはシナリオ的にはしょぼかったらしき映画と異なり、冗長的ながらも二転三転と振り回されるサスペンス的展開、それに政治・宗教・民族的な問題を絡めた背景が書き込まれているので、イタリアを舞台とする国際的事件を描く必然性が出ています。タイトルのアマルフィにもちゃんと意味が込められていますしね。
ただまぁこれを言ったらお終いなんだけど、一外交官が本来の職務を等閑にして、更に命の危険を犯してまでのめり込む必要があるのかとは感じてしまいます。途中で目的が邦人保護よりもテロ防止にすり替わっていきますし。
5年かけて練り上げた犯行計画なのに、わざわざ外交官が出しゃばってくるというイレギュラーな状況においてももそのまま問題無く進んでしまうのも不自然でした。
エンターテイメント小説としては及第点なのですけど、著者の「ホワイトアウト」や「奪取」といった傑作作品と比べると、夢中になってのめり込めるほでは無かったような気がします。

*1:父親は亡くなっていて、母子でアマルフィに行く予定であった

*2:ローマ神話に登場する女神の名前