6期・70冊目 『スリープ』

スリープ

スリープ

内容(「BOOK」データベースより)
目覚めると、そこは30年後の世界だった。『イニシエーション・ラブ』『リピート』に続き、今度は未来へ…6年ぶりの長篇書き下ろし。

前半は才色兼備の中学生にして若年向け科学番組の人気レポーター・羽鳥亜里沙やその仲間・鷲尾まりんや戸松鋭二らによる番組出演に関する話が展開されるのですが、重要な伏線がいくつも書かれてます。*1特に亜里沙による30年後の世界を描くヒット作を飛ばした海外作家へのインタビューによって30年後の世界というのが重要なキーとして頭に入るのです。それに各章ごとに何かと思わせぶりな結びがあったりして先が気になります。
やがて秘密のベールに閉ざされていた未来科学研究所への指名取材にて、テレビ収録を超えた国家レベルの秘密が明かされて、亜里沙が巻き込まれていく。


個人的に亜里沙を敬愛していた八田所長によって特別なスキャンを施されるのですが、そこで仮死状態になってしまい開発段階にあった冷凍睡眠カプセルに入れられ、目覚めた時には30年後の世界。彼女を覚醒させたのがノーベル賞受賞博士であり44歳になった戸松鋭二だったということになります。
人の生死にまつわる冷凍睡眠技術は倫理的な論議を呼び、勝手に覚醒させるのは法に触れてしまうことに。しかし亜里沙に対する想いによってここまできた鋭二は全てを捨て、30年前の姿のままの亜里沙と過ごすことを選ぶ。ここから二人の逃避行とそれを追う人々が描かれます。そこには陸軍情報部に所属する鷲尾まりん*2とその相棒兼恋人もいて、当局とは別に個人的な事情で調査を始める。
亜里沙と鋭二の幸せな時間を過ごすも亜里沙の体調の変化が訪れ、一方まりんらによって明かされていく事実。
果たして二人はどうなってしまうのか?
【以下、多少ネタばれ有り】





とここまではタイトル通り冷凍睡眠がテーマの話と思っていました。
もう一人(?)の亜里沙の人生が描かれるところから最後まで見事に振り回されましたよ。
スキャンされた直後、亜里沙は冷凍睡眠するようなこともなく、多少のごたごたがあったために日本を捨てアメリカへの進学することになるのですが、後から留学してきたまりんや鋭二との交流もあったりする。
まさかの夢オチ?と思ったらそんなことなくて、読み進めていくと30年後に二人の亜里沙の軌跡が結ばれるようになっていて、最後は深い感慨に浸ることになります。
それに30年後の日本は常識ががらりと変わるほど進化した技術と意外と変わらない日常。そのあたりがいわばタイムスリップ感覚の亜里沙の視点から具体的に描かれていて興味深いです。


「行き過ぎた科学への警鐘」という意味では確かにデリケートな問題を扱っていて、SFで描かれる分にはいいけど実際こんな技術が実現されたら世の中ひっくり返りそうですね。
そのせいか、ここで登場する科学者はちょっと変人ばかりな気がしますね。というか主要人物は少なからずどこか特殊な事情を抱えているようで…。中でも愛する亜里沙のために禁断の技術に手を出した戸松鋭二はちょっと救われないな…。
一方、常識人で大人じみていたヒロイン・亜里沙の行動こそが(ストーリー展開の都合とはいえ)実は突飛な点が多くてちょっと納得がいかなかったりするわけですけれど。
まぁ傑作とは言い難いけど、最初から最後まで充分楽しめた作品でした。

*1:一つだけ、紛失した下着に関してはぼかされているが、兄が関係するのだろうか?彼はシスコンの気があったとも見える

*2:階級は一尉。しかし上官は少佐なのだからこの場合は大尉が正しいのでは?