6期・42.43冊目 『続・徳川の夫人たち(上・下)』

続 徳川の夫人たち 上 朝日文庫 よ 11-11

続 徳川の夫人たち 上 朝日文庫 よ 11-11

続 徳川の夫人たち 下 朝日文庫 よ 11-12

続 徳川の夫人たち 下 朝日文庫 よ 11-12

以前読んだ『徳川の夫人たち(上・下)』(レビューはこちら)は伊勢慶光院院主から3代将軍徳川家光の寵愛を受けたお万の方(永光院)の一代記といった内容でしたが、続編はタイトル通り4代家綱の頃から最後の将軍・慶喜までの将軍正室(御台所)・側室を中心とする大奥の年代記となっています。
なお、大奥の中心人物が代変わりしてもたびたび永光院が登場して上巻最後にその死まで追っているあたりはどんだけ著者が彼女に惚れこんでいるかがわかりますね(笑)


年代記と言っても上巻のほとんどを占めるのが五代綱吉の時代の右衛門佐の事績です。
この人がかつてのお万の方を彷彿させる美貌と才知の人で、御台所付きの側室となるべく大奥に入ったものの、それに甘んじることなく見事綱吉を説得してお手つきにならずに大奥総取締の地位について辣腕を振るったとか。
よほど頭の切れる人だったようで、すでに大奥にて揺るぎ無い存在だった桂昌院(綱吉の母)や側室・伝(瑞春院)を相手に人を食ったような振る舞いにニヤリとさせられます。
ただ家光と良好な関係を築いてあくまでも穏便にその政治力を発揮した永光院と違い、右衛門佐の場合は綱吉の寵を手に入れても政治的な影響力はさほど無かったことが大きな違いですね。
そもそも家臣と協力して幕府の基盤安定に注いだ家光と、自分のため母のために悪政を行ったとされる綱吉とでは事情が違いますが。
それゆえ、晩年は体調を崩したまま失意のまま亡くなってしまうあたりは寂しくもあります。


下巻に入ると一気に時代が進んで個々の人物の描写は少なくなるのですが、その中で特筆すべきは七代家継の時の大奥御年寄・江島。江島生島事件で有名ですが、これは将軍生母の月光院と親しく、幕政を牛耳っていた新井白石間部詮房らと老中との争いに巻き込まれたという見方で書かれています。
筆者はまるで姉妹のような信頼関係を築いていた江島と月光院に同情的で、政治権力に近く男性を観る目に肥えていた江島が役者風情に溺れるわけなどなく(まして大奥に連れ込むことなど不可能)まったくの冤罪で、更に月光院と前将軍家宣の正室天英院との当人同士の確執も無かったとしてますね。
wikipedia:江島生島事件
その後の出色の人物としては、十三代家慶の頃の実力者・姉小路(勝光院)。引退後も和宮降嫁に奔走したそうで、この人も切れ者だったらしいですが、その実力行使が妨害・陰謀じみていてあまり印象良くないですね。
幕府の財政状況は十二代家斉の放縦な生活によって一層悪化した上に、数十人の子を大名に押し付けて恨みを買ったのが幕末の諸藩の相次ぐ裏切りに繋がったと考察していますがどうでしょうねぇ。遠因としてはユニークではあります。
地味なところで最後の筆頭御年寄・滝山が大奥立ち退き時の混乱を鎮めて見事な振る舞いを行ったのが印象に残りました。


近世までの歴史は男性中心であり、女性は一部を除いて脇役として描かれているものですが、そこを大奥というミステリアスで伝説めいた場所を丹念に史実を追って書かれている本書は貴重なものだと思います。
将軍を巡る愛憎劇は控えめ。衣装や持ち物に関する時代考証がしっかりされている上に、登場人物の繋がりやその墓所がどうなっているかまで記述されているあたりが歴史好きとしても読み甲斐あります。まぁ幕閣の人物(田沼意次松平定信ら)の描写については好悪がはっきりしてて、その評価にやや古めかしさ感じてしまいましたけどね。


以下余談。
ちょうど本書と前後して、よしながふみ『大奥』7巻を購入しました。
当然の如く、『徳川の夫人たち』は続編も合わせて参考にしているようで、男女逆転という設定でありながら、主な人物・エピソードはきちんと踏襲されていたり*1オリジナルの設定があったりして比べて読んでみるととても面白いです。


右衛門佐が登場するのが4巻。

大奥 第4巻 (ジェッツコミックス)

大奥 第4巻 (ジェッツコミックス)

江島生島事件が描かれるのが最新の7巻になります。
大奥 7 (ジェッツコミックス)

大奥 7 (ジェッツコミックス)

*1:本名は男女逆転してる(例:綱吉幼名・徳松⇒徳子、正室・鷹司信子⇒信平)が、女性の将軍・大名については表向き男性名を名乗ってる