5期・32冊目 『巴御前』

巴御前

巴御前

出版社 / 著者からの内容紹介
男は野望を求め、女は復讐を誓った。
上洛を夢見る木曾義仲のもとに、巴と名乗る女が現れた。女武者として義仲の軍に加わった巴は、平家一門への深い恨みを抱えていた。野望を求める男と、復讐を誓った女。二人の戦いと愛、そして転落を描く歴史長編。

木曾(源)義仲は源平の戦いの中ではいっときの光芒というか、分を超えた栄光(源頼朝を出し抜いて上洛)を掴んだがために悲劇的な最後を遂げた人物としか認知してなかったですね。義仲はもちろん巴御前を題材とした物語を読むのは初めてであり、大雑把な印象でしか知らなかった私としては実に新鮮な内容でした。
ここでの木曾義仲は貴種ではあるものの、己を知り幼少の頃より育った木曾の地と民を愛す無骨な武将という印象。もちろん武芸・統率においては右に出る者は無し。
それに加えて精強無比な馬(命名・御岳)と出会って「今後、他の馬に跨ったりしない。」という契りを交わして本当にその通りにするというストイックなところがあります。*1


時は平清盛が倒れ、平家打倒の機運が増してきた時期。そこに登場したのが以仁王の令旨を手にした巴。人の心を読み、相手によっては体を操ることさえできる異能を持つ上に武芸においても並みの男には及ばないほどの力量を持つ女武将。
その正体に関しては、いわゆる白拍子として以外に、伊賀の忍びと因縁あったり公家との繋がりがあったり、田舎武者には無い智謀も備えたりとかなり謎めいていますね。さらに自分を犯し焼印を押した男たちへの復讐に燃えるという強烈さを印象づけます。
過去の仕打ちからか、義仲以外に対しては冷徹さを貫き通す巴。歴史物でこういった女性像は珍しいかも。傍目には愛妾と見られながらも実際は共通の目的を持つパートナーといった、いささか変わった協力関係を結びます。互いに想いながらも終盤まではストイックな関係で、義仲を巡って巴と御岳が言い合ったりと、どちらかと言うと巴+義仲+御岳という二人&一馬の恋愛物語とも読めるのが面白いです。
戦場面に関しては特に記すことは無いですが、この二人以外の源頼朝義経、行家といった関わりある人物たちの描写がユニーク。一般受けはしないでしょうが、公平に見れば実際はこういった人物であったかもしれないと思わせるものがありました。

*1:前田慶次呂布にも似たようなエピソード(創作)があった気が