4期・59冊目 『マリア・プロジェクト』

マリア・プロジェクト (角川文庫)

マリア・プロジェクト (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
胎児の卵巣には、巨万の富が眠っている―。フィリピン、マニラ近郊の、熱帯樹林に囲まれた研究施設で、人類史を覆す驚愕のプロジェクトが進行していた。胎児の卵子を使い、聖母マリアのように処女をも懐妊させる、「マリア・プロジェクト」。生命の創出を意のままに操り、臓器移植にも利用しようというのだ。神を冒涜するその所業に、ひとりの日本人が立ち向かう。医学の倫理と人間の尊厳に迫る謀略エンタテインメント巨編。

卵子というのは胎児の時点で既に七百万個もの数が作られており、成長とともに減っていく・・・。
大富豪の娘・諒子がごく普通の家庭に生まれた大学生・瀬島との恋愛の果てに望まれない子供を身ごもり、6ヶ月というぎりぎりの時点で親に知られてしまう。身分の違いゆえ結婚など許されるわけなく、親の厳命によって形式的には早期出産という形で堕胎し、家名の面目のために闇に葬られるはずだった胎児がマニラにある研究所に送られて新技術の実験のために使用されるところから始まります。
胎児の卵子を妊娠可能なまでに熟成する技術を検証できた研究所が次に行ったのは、それを使い、本人の承諾無く(つまり現地の女性を拉致して)代理母を仕立てての出産。そして法で禁じられている15歳以下の臓器売買・移植手術へと暴走していく。
研究者たちが金のため、あるいは医療技術の向上を名目に人の生死さえなんの抵抗なく奪っていく悪魔の所業はおぞましく、そこには生命の尊厳などはなからありません。


後書きには執筆時には確立されていない技術を取り混ぜた上で、まさに神も恐れない組織犯罪を描いたと書かれていますが、フィリピンにおける貧困層体外受精・臓器移植における現実がストーリーに合わせて巧みに書かれており、実際にこういうことが起こっいても不思議じゃなさそうに思わせてしまうリアル感はさすがですね。そのあたりは『Cの福音』などでスケールの大きな国際犯罪を描いた傑作を送り出してきた楡周平ならではと思います。


やがて日本とマニラで起こった不可解な事実を合わせていくことで、パズルのピースをはめるように謎が解け、商社の駐在員としてマニラに赴任していた瀬島が研究所で行われている犯罪を知るに至る。家族を奪われて怒りに燃えるスラムのボスの協力を得て、研究所に殴りこむことに。
技術系の説明が多かった前半に比べ、後半は研究所内の攻防をメインにスピード感ある展開が繰り広げられ、読むペースも一気にあがります。
子供がいる身としては、結構ヘビーなテーマだっただけに救いのあるラストなのが良かったですね。
一つ気になったのが、悪役の一人を脱出に成功させたのは、続編を書いて登場させる気なんでしょうかね?