4期・46冊目 『擾乱の海〈1〉沈黙の真珠湾』

擾乱の海〈1〉沈黙の真珠湾 (歴史群像新書)

擾乱の海〈1〉沈黙の真珠湾 (歴史群像新書)

内容(「BOOK」データベースより)
1941年12月2日、ハワイ近海に接近しつつあった日本海軍空母機動部隊が「ニイタカヤマノボレ一二〇八」を受信した直後、突如全世界の電波通信が途絶!この未曾有の異常事態下、機動部隊進撃を続行させるか否か?騒然とする海軍軍令部。だが、もはや機動部隊を引き返させることはできないのだ…!一方、日本側同様の事態に混乱する米太平洋艦隊は、見えざる日本艦隊を警戒して、真珠湾在泊の戦艦「アリゾナ」「ネヴァダ」ほか主要艦艇を出陣させた。かくして世紀の開戦シナリオは崩れ、オアフ島沖に開戦劈頭の艦隊決戦が現出する。

横山信義氏の新シリーズ。時代設定は変わらず太平洋戦争ものであるものの、そういう手できたかというSFテイスト。*1
考えてみたら史実ではレーダーを始めとする通信技術、およびその運用にはだいぶ痛い目に遭っていた日本軍。*2その前提を無くしてしまい、連絡手段に関しては第1次世界大戦前レベルになってしまったという。作品内にも記述ありますが、かつて日露戦争バルチック艦隊を発見した哨戒船が狼煙で知らせた頃に逆戻り。目視できる範囲を超えると命令や状況を伝える手段が無く、困惑する姿が頻繁に出てきますね。


しかも真珠湾攻撃直前のタイミングというのがミソ。本来ならばこういう異常現象に見舞われた場合は国として軽挙妄動は慎むべきなのに、連絡が取れずに機動部隊は作戦通りに行動。だけど障害が起こっているのは米国側も同じなので史実とは違う形で戦端を開いてしまうわけです。*3
航空機を運用できても連絡手段を持たないので状況に応じた対応が取れないもどかしさ。そこで史実とはだいぶ様相が違う戦いが展開されます。
例えば、著者の既存シリーズでは何度も発生させていた巡洋艦以下の水上部隊による空母襲撃とか。まぁ今回のような状況下ではとても自然に見えますね(笑)
それにしても最近の傾向から、ブルックリン級軽巡金剛級戦艦と戦うとなるともう結果が読めてしまうのが困ったものではあります。


仮想戦記ってのは新しい技術・戦術思想を与えて史実がどう変わっていくかを描くのがオーソドックスなパターンだけに、今回は逆転の発想とも言えます。
それだけに今後どういう風に進行していくかが気になるところ。初回だからか欧州の状況も書いてくれましたが今後はどうなることでしょう?
タイトル的にまた日米の海戦がメインになるとは思うのですが、世界規模の現象ゆえに太平洋戦線限定ではもったいない気がします。今まで迫力ある海戦シーンを描くことを持ち味にした著者ですが、そのへんが変わることもあるのかどうか・・・。

*1:夜間は少し回復するだけに通信異常には太陽が関係しているらしい。有線通信は問題なし

*2:自身がそういう技術への活用・投資が不充分だったというのもある

*3:宣戦布告の仕方も変わってしまったが、タイミングに関しては微妙