4期・15冊目『雷撃深度一九・五 』

雷撃深度一九・五 (文春文庫)

雷撃深度一九・五 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
昭和20年7月16日、110余名の乗員と人間魚雷回天を乗せた伊五八潜水艦が呉軍港を出港した。フィリピン東方を通過する敵艦船をグアム―レイテ線上で撃沈せよとの特命を受けた倉本艦長は、宿敵マックベイ大佐と太平洋戦争における艦艇同士の最後の闘いに挑む―。全く新しい戦争サスペンスの誕生。

太平洋戦争末期のイ58潜水艦による米国海軍重巡洋艦インディアナポリスの撃沈という史実*1をベースに作り上げた架空の戦記であるわけですが、そもそも原爆の運搬という特殊任務のため単艦行動中であったインディアナポリスと偶然待ち構えていた伊五八との戦いというだけでも興味深い素材ではあるわけです。
それを米軍側は史実の人物が登場するのに対し、日本側はほぼ架空の人物に置き換え、米軍側の陰謀めいた内幕を書いたり双方の指揮官をライバル仕立てにするなど物語を盛り上げる工夫が随所に見られます。そこをどう評価するかですね。若い頃に一度しか会ったことのない相手が必ず潜水艦に乗って待ち構えているだろうと信じきっているマックベイ大佐の心情とか、やや演出が過剰かなと思いましたが。


それでもイ58vsインディアナポリスの戦いの描写は迫真に迫るものがあります。特に当時の潜水艦においては限られた情報しか得られない中での判断が生死を分ける苦悩、狭くてろくに酸素が供給されない悪条件の艦内で長時間耐え続けなければならない苦しさなど乗員の状況は非常に良く伝わってくるものがありますね。


なお、個人的にこの著者を知ったのは『八月十五日の開戦』が先でありましたが、もともとは本作の方がデビュー作*2であったそうです。
解説によると、もうひとつ礼号作戦を取り上げた作品も構想中で、終戦3部作になりそうと書かれていましたが、後回しにされているようですね。私などは読んでみたいですけど、こういう戦記フィクションは読者が限られる分野だろうなぁ。

*1:それは帝国海軍艦船による最後の大型艦撃沈でもあった

*2:ちなみに今年映画化もされるそうだけど、興行的にはどうだろう