4期・4,5冊目 『ドゥームズデイ・ブック(上・下巻)』

内容(「BOOK」データベースより)
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キヴリンは、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。

『航路』に続いてのコニー・ウィリスの長編。事前にレビューを読んで想像つきましたが、『航路』と同様に主人公が切羽詰って急いでいるのに様々な障害に当たってなかなか先に進まないもどかしさをまたも感じましたね。特に前半の正体不明のウイルス騒ぎによる隔離の場面などは似たような箇所が続いてイライラすることも(後になって生きてくる伏線もあったりするわけですが)。
それでもまぁ今回は現代とタイムスリップ先の中世とで舞台が交互に入れ替わるのと、中世の時代におけるデテール描写は半端じゃないほどリアル感があるので飽きはしません。というか、タイムスリップ物と言えば、もっと劇的だったり緊迫する展開を予想するのですが、これだけの量を起伏の少ない人間ドラマとして読ませる作品はそうはお目にかかれませんね。
ただ、欧米人なみにキリスト教の儀式や習慣を知っていれば、もっと物語にのめりこむことができたのでしょうが。


発達した歴史研究によって中世人になりきったはずのギブリンが、いざタイムスリップしてみると言葉が通じないことも含めて様々な齟齬が生じるのが実際有り得そうでユニークでした。正体を疑われて、当初設定したあった身分ではなく咄嗟に記憶喪失を装ったり、うっかり読んでしまった字のことを慌てて誤魔化したり。*1怪しい女性は魔女だと断罪されてしまう中世ゆえの苦労など、タイムスリップものにつきものの歴史的なミスマッチもちゃんと書かれているのは好ましいです。
ところでこの作品の特徴はというと、稀有な体験を通してのヒロインの成長と、時代に関わりなく人間の本質に迫った感動を呼ぶストーリーとも言えますが、私が終盤感じたのは深い悲しみですね。改めて歴史とは多くの人間の所業によって成り立っているのだと悟ったわけではありますが。

*1:昔は女性の識字率はたいそう低かったため