3期・77冊目 『戦艦「大和」最後の光芒 下』

「大和」撃沈を焦る第58.1任務群の抗命行動を知った米第五艦隊司令スプルーアンスはいかなる決断を下すのか?いまや日本海軍最強の戦艦と米海軍の誇りを賭けた、史上空前の大海戦が刻々と迫りつつあった!!

もし戦艦「大和」が本格的な水上戦闘を行ったら?というありふれた想定でありながら、あえて戦争末期の沖縄特攻に持ってきたという架空戦記の後半。地味ではありますが、著者らしい濃い内容に仕上がっていますね。
というのも、下巻は最初から最後まで戦艦「大和」率いる第一遊撃隊の海戦の連続というか、それしか書かれていないと言ってよく、まさに著者の本領発揮と言えるでしょう。ことに戦艦のヒロイズムを書かせたら架空戦記の中では横山信義氏の右に出るものはいないと個人的に思います。*1
以下、ネタばれあり。


下巻の経過を追っていくと、

  1. 奄美大島南西沖にて、分派された米空母との偶発的戦闘。
  2. 復讐に燃えるクラーク少将のアイオワ型戦艦2隻を含む水上部隊との戦闘。
  3. 沖縄本島付近にて、待ち構えていたスプルーアンス座乗の旧式戦艦群との最後の戦闘。

上巻での航空戦の結果と、ほとんど夜間であったという点を差し引いても航空機が一切出てこない砲弾と魚雷のみ飛び交う海戦シーンにはまるで『八八艦隊物語』のような雰囲気を感じましたね。
そして、日本の戦艦が敵艦照射というリスクを毎度冒すのと、発射前の魚雷発射管に命中・大爆発という、いつものパターン(笑)


タイトル通りに戦艦「大和」の戦いがメインではあるものの、心憎いのはシリーズものでは省略されがちな軽巡駆逐艦までも最後まできっちり描かれていること。大和の援護に向かう水雷戦隊のため、追いすがる敵巡洋艦の前にたちはだかった「矢矧」の最後など鬼気迫るものがあります。
特に史実と違ってぎりぎりのタイミングで参加した重雷装艦「北上」「大井」の見せ場が巧いです。*2
もちろん、大和もそのモンスターぶりを遺憾なく発揮。『征途』の大和・武蔵ほどではないけれど、鬼神の如き戦いぶりと最後のときを静かに沈み行く姿は「光芒」の名にふさわしく、著者の大和への思い入れをうかがわせますね。


ラストの場面は8月15日、あの中津留大尉の彗星に乗る宇垣纏が登場。それも特攻ではなく大和への餞を行ったうえで、戦後を見据えて中津留らの若い人材を生かそうとさせるところが史実よりよっぽどいい。それだけに最後の行で暗示させるものが必要であったかどうか微妙ですね。


【追記】上巻のレビューはこちら

*1:最近の他の作家はあまり読んでいないので言い切るのも何だけど

*2:横山作品では、意外とこの2艦はどちらかの轟沈と引き換えに戦果をあげているんですけどね