2期・30冊目 『夏の災厄』

夏の災厄 (文春文庫)

夏の災厄 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京郊外のニュータウンに突如発生した奇病は、日本脳炎と診断された。撲滅されたはずの伝染病が今頃なぜ?感染防止と原因究明に奔走する市の保健センター職員たちを悩ます硬直した行政システム、露呈する現代生活の脆さ。その間も、ウイルスは町を蝕み続ける。世紀末の危機管理を問うパニック小説の傑作。

【オススメのパニック小説を教えてください!】からの第一弾は『夏の災厄』です。
実は質問前に「パニック小説」でググった時に引っかかったのですが、その時はさほど興味を惹かずにスルーしてしまったのですね。
しかし質問した時にオススメされたのと、バイオハザードによる一都市(埼玉県昭川市という架空の地方都市)のパニックを描くあらすじを見て興味を抱いたわけです。


著者の市役所勤務の経験が生きているのか、保健センターを中心とした現場の第一線で働く人たちの模様が非常に細やかに生き生きと描かれています。
危機を想定していない行政システムに縛られて思うように動けない市側、そしてパニックに陥った昭川市の状況の悪化が様子がいかにも現実味あって恐ろしい。
保健センター内での職員が葛藤する場面がよく出てくるのですが、作品に書かれたほどの災厄でなくても実際にありそうですね。*1


数名を除いて人物描写は少なめで、ある意味、鮮やかな活躍をするヒーローは出てきません。そして、世の中は善悪という単純な価値観では図れない。*2明確であるけれど意図したわけでない原因があって生じた災厄。そしてごく一般的な現場の人々が事態の解決を図ろうともがく。そんなあたりがとてもリアルに徹しているように感じました。
必死の予防策や原因究明による努力はなかなか実を結ばず、それをあざ笑うかのようにあちこちで起こるウイルス被害に、読んでいてもどかしく感じたりはしましたけどね。


しかし最後には事態は急展開し、昭川市には穏やかな秋が訪れるのですが、本当の"災厄"はこれからだった・・・のか?

*1:印象的な係長の台詞「極端な話、役所のやることは、効果的でなくてもいい。しかし万が一でも間違いがあってはならないんだ」

*2:鵜川医師が象徴的