2期・10冊目 『女信長』

女信長

女信長

佐藤賢一初の日本史物で、しかも織田信長が実は女性だったという驚きの発想でその一生を描く歴史長編。
男性思考によるそれまでの戦国大名の限界を超えて、天才的とも言える信長の行動には、商業地出身の女性ならではの柔軟な発想プラス・ヨーロッパの軍事技術を参考にしたということで、きちんと辻褄が合うように展開されているので納得できるし、信長が男装を解くととびきりの美女となって豪傑たちを翻弄するのも面白い。
有名人物達(帰蝶柴田勝家浅井長政明智光秀羽柴秀吉ら)と女である信長との関係は、びっくりというか、新鮮でもあります。*1


晩年になると、天下人の孤独や身体・精神の衰えからくる所業がかなり重苦しいですね。ちょうど史実でもヒステリーや家臣への疑いが激しくなってきた頃だったと思いますから、女信長も苦悩の場面が多くなります。*2
他の歴史物と違って実際の戦場面などはあっさりするほどすっ飛ばされて、むしろ信長自身が感じる男女の違い*3や武将との関わり合いの方に重きを置かれているのですが、男の私から見ても女性的な思考やら感情がパターン化過ぎるかもなぁと思いました。


一つの発想からよくぞここまで書き上げたという感じで歴史フィクションとしては面白い。特に最後の大御所・徳川家康と某高名なる僧侶との会話など、この時代を知っている人からすればニヤリって感じですね。
でも織田信長を尊敬しているくらい好きな人・本格歴史長編を期待する人には、あまりお薦めじゃないですね。

*1:ちなみに女性であることがばれないのかという点は、何かのヒーロー物と同じようにかなりご都合主義。

*2:そうなると、「」(カギカッコ)の使い方がはっきりせず、口に出した台詞と心の声の区別がよーく読んでいないとわかりにくい。

*3:ややくどいほどに