27冊目 『始祖鳥記』

始祖鳥記 (小学館文庫)
作者: 飯嶋和一,
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2002/11
メディア: 文庫


まだ人が空を飛ぶなんて夢物語だった時代*1、空を飛ぶことにとりつかれた1人の男の人生を描いた作品です。
舞台は江戸時代後半ということで、歴史物のジャンルと言えそうですが、これは安定した暮らしに満足できずに己の夢に向かって突き進んでいかざるをえなかったり、因習に縛られ制限された商いを強いられることをよしとせずに命をかけて人生を切り開いていく、といった熱い心を持った漢(おとこ)達の冒険ロマンとも言えます。
と言っても人物の心情描写は感情的でなく、逆に淡々としています。
それでいて人が人に影響されて行く様などはじんわりと伝わってきます。


綿密に行われた時代考証、細やかに描かれた時代の風景、特に当時の流通・海運業界の仕組み・技術など微細にわたり、読むほうにも斜め読みなどできない、きちんと取り組まなければ面白さがわかるわけが無いというような作品です。
こういう本格派小説を待っていましたって感じですね。ここで作品の面白さをうまく伝えることはできそうにないですが、個人的には、読後の心が痺れたような感覚は久しぶりでした。

*1:ライト兄弟の動力飛行成功は100年以上後です。