9期・51冊目 『八八艦隊海戦譜 終戦編』

八八艦隊海戦譜 - 終戦篇 (C・NOVELS)

八八艦隊海戦譜 - 終戦篇 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)
欧州にて劣勢が続く独軍は、科学技術力を結集し、新型兵器V2、さらに衝撃の最終兵器の開発に成功した。一方太平洋では、トラックから撤退し進退窮まる日本軍が、情報参謀・磯崎稔の提案によりパラオに全戦力を集結。「大和」「武蔵」に加え近代化改装を終えた「劔」「燕」含む劔型四隻で一撃講和に最後の望みをつなぐ。対する米軍は、ニューハンプシャー級を始めとする新鋭戦艦九隻と新型探知機「ウェザーマン」を投入し兵力で圧倒せんとする!著者作家生活20周年記念の戦記巨篇、ここに完結。

前巻でトラックが航空攻撃を受けて事実上無効化されてしまい、ラバウルも孤立状態。
戦力が回復した次の戦いで米軍が目指すであろうサイパンもしくはパラオを失陥することはおのずと敗北への道を意味します。
サイパンは本土空襲*1の拠点となりうるに対して、パラオはフィリピン攻略の拠点となり、南方資源帯への航路が断ち切られてしまう。
どちらで迎え撃つかGF内で激論が戦わされた結果、奇しくも米軍の進撃ルートであるパラオと一致。
かくしてその地で決戦となったのですが、講和への望みを繋ぐために日本軍は「大和」「武蔵」に近代化改装を終えた劔型を加えて6隻の46cm砲艦で勝利を目指す。
一方米軍は最新鋭のニューハンプシャー*2を始めとする戦艦九隻を押し立て、それに前回試験運用を行った新型高高度探知機「ウェザーマン」(機体はB24)を切り札に勝利を確信していました。


大雑把な流れと感想を書きますと、

  • 前哨となる基地攻防戦では新型艦戦・烈風を投入したことで日本軍善戦。

⇒でも守る側なのに基地航空隊と艦隊で連携できなかったのが日本軍の手落ち。そこは米軍の方が上手というか、あくまでも艦隊の補助戦力という思想から抜け切れない日本側ということか。

  • 主力艦同士の戦いではいきなり遠距離で精度の高い砲撃を受けて日本艦隊が苦境に陥る。

⇒角田長官がB24をちらりと見るシーンはあったが「ウェザーマン」の正体に誰も気づかなかったのが意外。
架空戦記では冷遇されがちな栗田提督が今度こそ活躍するかと思ったら初っ端で退場。やっぱりそういう役どころか・・・。

  • 距離が詰まって日本艦隊反撃、双方に被害が続出するも結果的に日本が押し切って米軍退却

⇒乱戦の中では外れ魚雷が別の艦に当たるのはあり得るのだろうけど、計ったように主力戦艦2隻に一発ずつ当たって戦闘力を奪うって都合良すぎ。
今回ばかりは米軍の勝利は固いだろうという展開を覆すために強引さが出たか。
でもって帳尻合わせのように最後に米駆逐艦の雷撃を受けて沈んだのはなんだかなぁと思った。日本艦隊の巡洋艦駆逐艦は何していたんかと。

  • 欧州では”迎撃できない”V2ロケットの運用開始。その影響か、連合軍の史上最大の作戦と東部国境からのソ連侵攻が始まる。しかし進撃しようとしたまさにその頭上でドイツの新兵器の光がさく裂!かくして欧州戦線は新展開へ。

⇒前巻でのドイツ爆撃隊の伏線回収ですな。そして欧州戦線激変→その影響で日米講和はこの頃すっかりお約束。


概ね予想がついた展開だったわけですが、日本の不利状況から講和にもっていくため、そして1巻に絞ったことで強引さと不自然な記述が目立ちましたね。
それでも最後まで安定して読ませるのが著者の実力ではありますが。
横山信義氏の作家生活20周年記念ということで出世作『八八艦隊物語』をベースにした新シリーズでしたが、後半の展開はまったく別物になりました。
でもこれだけ同時代の架空戦記シリーズもの書いていれば、どうしてもどこかで見たような展開ってなってきますよね。
もしかしたら、太平洋戦争をテーマにした架空戦記シリーズを打ち止めにするために、八八艦隊を選んだのかなって気がしました。
もともと単発ものなら架空戦記以外も書いている人ですから、これからは違う分野の長編を書いても良さそうな気がします。

*1:この世界ではB29は登場していないが、日本側もB17やB24に有効な迎撃戦闘機の開発が進んでいない。実際苦しめられているのだから対処しても良さそうな気がするが

*2:パナマ海峡通行の艦幅制限をしない初の戦艦

9期・50冊目 『岡本綺堂 怪談選集』

岡本綺堂 怪談選集[文庫] (小学館文庫)

岡本綺堂 怪談選集[文庫] (小学館文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
明治初期、商売をたたんで一家で移り住んだ“しもた屋”の離れに、一人の泊り客ができた。離れには、主人が没落士族らしき男から買い受けた木彫りの猿の仮面が掛けられていたが、夜も深まったころ、どこからかうなり声が聞こえてきて…(「猿の眼」より)。怪談の名手・岡本綺堂の短篇十三本を選りすぐった“おそろし噺”傑作集。江戸から明治、大正時代までを舞台にした怪しくて不可思議な噺が、百物語形式で語られていく。ほかに、雪夜の横丁に座る老婆を目にした若侍たちの顛末を描く「妖婆」、新婚の夫がある温泉場から突然行方不明になる「鰻に呪われた男」など。

今月、人力検索で募集したホラー小説の第一弾。
岡本綺堂の名は以前から知ってはいたものの、その著作を読んだのは初めてでした。
収録されているのは以下の通り。
「利根の渡」「猿の眼」「蛇精」「清水の井」「蟹」「一本足の女」「笛塚」「影を踏まれた女」「白髪鬼」「妖婆」「兜」「鰻に呪われた男」「くろん坊」


タイトルを見てそのまま内容が想像つくようになっていますが、見ての通り動物関連が多いです。
「猿の眼」は壁に掛けた古い猿面が夜中に人を惑わす話ですが、願いを三つだけ叶えるという怪奇古典の名作「猿の手」を想起させます。
古物には得体の知らない力が宿るものなのか、手にした人を魅惑し惑わすと伝えられますが、そういう意味では「笛塚」や「兜」にも共通していますね。
時や距離を超えてたびたび持ち主のところへ戻ってくるという点にも得体のしれない怖さを感じます。
「蛇精」は”うわばみ”(古来の大蛇の通称)退治の名人の顛末、「蟹」は出所不明の蟹が実は毒を持っていたばかりか、その出所を探ろうとした人さえ行方不明になるという奇怪な話です。どちらもその正体が気になります。
「利根の渡」と「白髪鬼」、「清水の井」は人の強い念が祟りを起こしたというポピュラーな内容と言えましょうか。そういえば井戸とか沼とか水にまつわる怪異は怖い話が多いですねぇ。
「一本足の女」「妖婆」は人の成りをした妖かしの話と言えましょう。
「妖婆」の方はそれほどではなかったけど、「一本足の女」は篤実な男をも狂わせる魔性の女という設定に加えて刀に付いた血を啜るシーンが強烈でした。
「鰻に呪われた男」は鰻を生で丸のみする妙味に憑りつかれてしまったばかりに何もかも捨てて放浪することになってしまうという、どこか悲しい話です。
「くろん坊」はここでは人と猿のあいのこの猿人・山男のような奇妙な生き物を指します。元来人には害を為さない大人しい性質であったが、戯れに将来娘をやろうと言ってしまったばかりに家族に悲劇を招いてしまったという。*1この中では特に印象深い話でした。


主に大正年間に発表された短編であり、当時の人々の経験談や伝え聞いた話という形を取っているため、時代設定が江戸時代後半から明治時代となっています。
そのせいか、子どもの頃見たアニメ日本昔話の怖い話を思い出させて、どこか懐かしい印象でしたね。
しかも読みやすくすんなり物語の世界に入り込めてしまう。
決してオチがつくわけでも過激な描写もないのですけど、全体的に静かな情景描写がじわじわと来る怖さを感じさせられました。

*1:このように動物や化物の類が人間の女性に惚れ込むという話はよくあるよね。里見八犬伝の序章も確かそうだった

9期・49冊目 『怪しい人びと』

怪しい人びと (光文社文庫)

怪しい人びと (光文社文庫)

内容(「MARC」データベースより)
自分の部屋に戻ると見知らぬ女が寝ていた。女は居座りを決め込んだ。俺は動転して…。同僚のデートの場所に自分の部屋を貸した男が災難に巻き込まれる「寝ていた女」ほか6篇、斬新なトリックが光る傑作推理集。

東野圭吾の初期(90年代)の作品を収めた短編集となります。
どれも日常生活の中で、ふとしたはずみで遭遇してしまった犯罪を描いていますが、どこか意外性のある結末と人間の黒い感情を覗かせているのが共通していると言えましょうか。


「寝ていた女」
実家暮らしの同僚が恋人との逢瀬を楽しみたいということで、一晩有料で部屋を貸すことになった主人公。
ある朝帰ってみると見知らぬ女が一人寝ていた。
泥酔していたために、誰と来たかわからないという。
部屋に女が居座ってしまい、主人公は困ってしまう。
「もう一度コールしてくれ」
強盗に入った先で通報を受けて逃げ出した主人公。警察に追われて付近の家に駆けこむ。
そこは主人公が高校球児だった時、最後の大会で因縁があった元審判が暮らしていた。
「死んだら働けない」
工場の休憩室で男性が鈍器のようなもので頭を殴られて死亡していた。
彼は非常に仕事熱心で深夜にも関わらず産業用ロボットの調整をしていたらしいが…。
「甘いはずなのに」
ハワイに新婚旅行に来た夫婦。
夫は過去に妻と死別した後、しばらく娘と二人で暮らしていたが事故で亡くしていた。
その娘の死に当時交際していた妻が関わっていたのではないかという疑念が今も晴れない。
「結婚報告」
旧友からの結婚報告の手紙に同封されていた写真には彼女とはまるで別の人物が写っていた。
確認すべく新居を訪れるも友人には会えず、夫の態度もどこか怪しかった。
灯台にて」
ちょっと因縁ある幼馴染の友人と旅行に出かけて別行動に出た主人公だが、ある灯台を訪れ管理人の勧めで泊まった際にとんでもない目に遭う。
途中で友人と会い、ふと悪戯心からその灯台に行くことを勧めるのだが…。
コスタリカの雨は冷たい」
野鳥観察が趣味の主人公は海外赴任終了間際に貴重な野鳥が豊富というコスタリカに旅行する。
比較的治安の良いその地でいきなり強盗に遭ってしまうのだが、ひょんなことで盗まれたはずのカメラの電池ケースを見つけて、強盗の正体に疑念を抱く。


表題作は女は見た目じゃわからないという話ですね。それでも騙されてしまうのが男ではありますが。
特別な展開やトリックがあるわけでもなく、それだけの印象でした。
「もう一度コールしてくれ」
高校野球の審判のアウト判定によってその後の人生が転落してしまった男の話ですが、結局自業自得としか言えないような・・・。
「死んだら働けない」
殺害されてしまった係長のような仕事に夢中になると周りが見えなくなる人ってどの会社にも一人くらいいそうですね。
ただし何事もほどほどにしておかないとトラブルを引き起こしかねないという点でよくわかります。
「甘いはずなのに」
ありふれた男女の情のもつれた話かと思わせておいて意外性のある展開。父親の子を亡くしてしまった悔恨と相まって、内容的には一番良かったかな。
夫妻の幸ある再出発を願いたい結末でした。
「結婚報告」はふとした偶然が奇妙なミステリを呼び、そしてヒロインの旺盛な行動力と好奇心によって解決をもたらしたのが印象的でした。
この内容は以前ドラマで見た記憶があったのですが、「甘いはずなのに」と共に東野圭吾ミステリーズとして2012年に放送されたそうです。

灯台にて」は同じように学生時代に一人旅をしていたこともある私にとっても怖いと感じた話。男だからといって油断してはいけません。
主人公と友人との歪んだ関係がなんともいえないですな。
コスタリカの雨は冷たい」はこの中ではちょっと毛色が変わった内容。
珍しく外国が舞台なためか、ストーリーそのものよりも脇役を含めた登場人物の会話がユーモラスで面白かったです。

二度とやりたくないバイト

この日記内でも何度か書いている通り、学生時代最後にして最長のバイトはコンビニだけど、そこに就く前は一日限りの短期から一年以上の長期までいろいろバイトしてました。
少し前にこんな記事を見て昔のことを思い出したので「二度とやりたくない!」と思ったバイトを書いてみます。
正直二度とやりたくないバイトwwwwwwwwwwwwwwww
実際は「二度とやりたくない」から「できればやりたくない」程度まで混ざっていますが。

  • 冷凍倉庫内の荷物運び

フロムAで見つけた短期(日雇い)のバイトで高額給与に釣られてやってみたはいいが激しく後悔。
20〜30kgくらい?の重い箱をひたすら指示に従って黙々と仕分ける作業。
一日終わったら手足ガクガク。長く続けてたら腰がやられそう。

  • ステーキ店の厨房

高校の時に友達と二人で応募。
どこの厨房も同じだと思うけど、入ったばかりで任されるのは洗いものに掃除にゴミ棄て。
それもまだ熱くて油まみれな大量の鉄板。水気を含んだ重い生ごみ。異臭漂う排水溝の掃除...etc
人間関係は無いも同然で、本当に下働きといった感じで時間内は黙々と働いていた。
何よりも大変だったのは自転車で片道30分かけて通ったこと。結局一か月半で辞めた。
今思えばなんでそんなバイトを選んだのかと思ったけど、地元の町にはバイト先が少なかったことや従業員価格(メニュー価格の半分くらい)で食べられるステーキに釣られたからか?
確かにステーキは美味しかった(笑)
その後にバイトしたラーメン屋は良いところで1年以上続いたので、飲食店に関しては本当に店によるのかもしれない。

  • 予備校での書類仕分け

大学に入学したばかりの頃に先にバイトとして入っている同級生に誘われてやってみた。
テストや書類をただ仕分けるだけの作業。はいいんだけど別に大量に来るわけではなくて仕事量も波があったので、何もすることが無い時は退屈で暇を持て余してたのは覚えてる。
そういう時はバイト仲間と喋ったり、書類を眺めていたり。*1
今まで体を動かして稼ぐバイトが主だったので、逆に楽過ぎたのが合わなかった。まぁ時給も良くなかったしね。どうせならもっと稼ぎたいと思って一か月くらいで辞めさせてもらった。

地元駅で夕方の混雑する時間帯ではあっても、ポケットティッシュならまだしもただのチラシはほとんど受け取ってもらえない。
慣れてくると、サラリーマンやOLよりも高校生や年配者の方が受け取ってくれることがわかって狙って配ってた。
それでも2時間で200枚でノルマはきつかったなぁ。
その日の仕事を終えて教室に戻ると、笑顔で迎える受付のお姉さんがバイトとわかると途端に態度が変わるのが地味にこたえた。


逆にまたやってみたいと思ったバイト(長期だったコンビニとラーメン屋を除く)

  • デパ地下菓子店の販売

先にバイトとしてやっていた友人の伝手でバレンタインデーとホワイトデーの時期限定で入った。
繁忙期もあって給料がとても良かった。
売れ残りの生菓子(それも普段食べない高いやつ)がもらえたのも美味しい。
それでいて仕事がきついというわけでもなく、社員やバイト仲間とか人間関係も良かった。

  • 引っ越し

ただし現場による。
作業さえ終われば時間に関係なくその日分の日給もらって帰れる。個人宅だと家の人から謝礼(食事代?)をもらったこともあり。


ある意味、漫然と学生生活していただけでは出会えなかった種類の人とか現場とか、良くも悪くもバイトを通して社会経験は積ませてもらいましたね。それがその後の人生の糧となっているかはわかりませんが・・・。

*1:個人情報保護が厳しく言われる時代ではなかった

9期・48冊目 『異国合戦 蒙古襲来異聞』

異国合戦 蒙古襲来異聞

異国合戦 蒙古襲来異聞

内容紹介
鎌倉時代の二度にわたる元寇で歴史に名を残した肥後の御家人竹崎季長の活躍を軸に、攻め寄せる元の皇帝フブライの思惑や、元の圧政に苦しみながら先鋒を務めた高麗の指揮官や兵士の戦いぶりをも描く、長編歴史小説
季長が文永の役の恩賞を求めて、九州から鎌倉まで直訴に赴いた顛末など、単なる合戦ものにとどまらない人間ドラマとなっている。

1274年(文永11年)10月、対馬壱岐を蹂躙した元・高麗軍は九州の博多付近に上陸。
急遽召集された九州一円の武士団が迎撃に当たり、各地で戦闘が勃発しました。
その中の一人、肥後の御家人竹崎季長は父急死後の争いに敗れて領地を持たない惨めな境遇から脱するためにこの戦を機に何が何でも手柄を立てようと焦っていました。
そのためにわずか五人の手勢を連れて元の軍勢に突撃を試みるのですが、敵の集団戦法や打ち鳴らされる楽器、毒を塗り込められた矢や「てつはう」と呼ばれる火薬武器など、本邦とはあまりに違う戦闘方法にとまどいます。
負傷しながらも先駆けを果たしますが、恩賞の沙汰はなく、このままでは武士の面子が立たない季長は馬を売り払うなどして旅費を用立てて、鎌倉まで訴えに行くことにしたのです。


文永・弘安と二度にわたって起こった元寇(元側からすると皇帝フビライの日本征討)を攻める元帝国と守る日本、それに間に挟まれた高麗というそれぞれの立場から描いた一大群像劇となっています。
日本側の主人公は二度とも前線に出て奮戦した竹崎季長
教科書にも載っている「蒙古襲来絵詞」を描かせた御家人として有名です。
自分の手柄を認めさせるために肥後からはるばる鎌倉まで訴えに行ったというエピソードと自身の活躍を絵詞として描かせたということから、きわめて自己顕示欲の強い人物という印象でした。*1
しかしこの中では実直な武人として描かれており、所領を持たない貧乏御家人から脱するために一命を賭したわけです。
どちらかというと後先考えずに無鉄砲に行動する人物であり、幸運が重なって訴えが認められて、晴れて地頭として領地を持つものの、再度の異国警固番に伴う出費に苦労する。
その描写は非常に人間味あふれていて、どこか現代のサラリーマンか中小企業の経営者を彷彿させます。


一方、元に征服されて属国である高麗側としては宰相であり、かつ征日本都元帥に任じられた金方慶、そして李という下級兵士の立場から、日本征討の為に戦艦建造や物資・兵力供出など多大な負担を強いられ疲弊しているさまが重苦しく描かれています。
もしも日本が陸続きで侵略をじかに受けていたら同じ立場になっていたかと思うと恐ろしい。
元側としてもフビライ側近の耶律希亮*2による客観的な視線からの内部事情がわかりやすい。
いくら大国といえどもこの時代に海を超えて遠征することの困難、それに(弘安の役では台風に助けられたとはいえ)日本武士団の健闘ぶりが印象深かったです。
後世に伝えられたような神頼みはあくまでも建前で、情報収集に怠りなかった幕府、そして前線では戦訓を生かして戦い方を変えるなど、実践的な武士たちの強さが目立ちました。
今まで日本側から読むことが多かった元寇ですが、本作はこの戦役を巡って東アジアの複数の国の人々による激動の国際史ドラマとして味わえたのが良かったです。

*1:絵詞については、褒章の際に恩を受けたが霜月騒動で滅んだ安達親子や少弐経資らの鎮魂の意味もあったらしく、ラストでもそのように描かれている

*2:かつてチンギス・ハーンに仕えた耶律楚材の孫

9期・47冊目 『霧の城』

霧の城

霧の城

内容(「BOOK」データベースより)
武田軍に攻められ、落城寸前の美濃・岩村城。元城主の妻として、城を守るおつやの方に敵の大将・秋山善右衛門から一通の書状が届けられた。そこには和議の条件として、おつやと夫婦になりたいという驚きの申し出が―著者渾身の歴史時代長編。

武田信玄の西上作戦に伴い、信濃伊那方面より秋山善右衛門(一般的には秋山信友として知られるが諱としては虎繁が正しいらしい。伯耆守を称したが、本作では主に善右衛門と呼んでいる)が派遣されて東美濃岩村城を攻略せんとします。
一方、岩村城では遠山景任が良く治めていたが、約半年前に病死して以後は妻であるおつやの方(信長の叔母)が信長の五男・坊丸を養子にして守っていました。
何度か攻めかかるも城の守りが固く、正攻法では時間がかかると見た善右衛門は和議を持ちかけます。
条件はなんと、おつやの方と善右衛門*1の婚姻。
それは戦無しに城と地元勢力をそのまま手に入れる妙策であったわけですが、まだ亡夫の喪が明けないおつやの方としてはすんなり承諾できるものではなく。
しかし政略結婚で平凡な結婚生活を営んでいたおつやの方にとって、ストレートに感情表現してくる善右衛門には惹かれるものがなくはなかったのでした。


織田・徳川対武田の戦いは三河遠江が主な戦場だったのですが、信濃と美濃の国境方面でも攻防が繰り広げられていたわけです。
そんな中で父・織田信秀の命により岩村城主・遠山景任にもとに嫁がされたおつやの方は景任亡き後も織田の一門として、幼い養子を迎えて城を支えていたはずなのに、なぜそれを裏切って敵方の将と結婚することになったか?
そこで実はおつやの方を見染めた善右衛門の戦場の駆け引きを超えた想い、それを徐々に受け入れるようなったおつやの方という戦国のロマンスとして描かれているんですね。
実は物語当初の年齢は善右衛門は40代半ば、おつやの方は30代前半、と現代ならともかく人間50年と言われる戦国においては老境に入りかけた遅咲きの恋愛ではあるのですが、この二人が非常に魅力的に書かれているので気にならないですね。
織田家の人間に共通した美貌の持ち主であるおつやの方は城をよく治めていて、城主夫人としても有能で人望もあります。
善右衛門も武田二十四将に数えられる歴戦の将であり、織田家との外交を担っていたこともあって智謀もある優れた男でした。
そんな二人が紆余曲折の末に仲睦まじい夫婦となり、信玄没後もしばらくは平穏な日々が続いたのですが、長篠の戦で武田軍が大敗してから岩村城は織田の支配する東美濃の中で孤立、苦しい戦いが続くようになります。


実際のところ、歴史の流れとしてはだいたい知っているわけで、二人にとって良い結末が待っているとは思えなくても、最後までその幸せを願いたくなるような物語でしたね。
それだけにその最後は一層悲しみが残る結末でした。
また戦国ものは勝者である織田の人物視点で読むことが多いので、こういう逆パターンなのも新鮮でした。

*1:若い頃に妻を亡くして独身だった

9期・46冊目 『日本分断』

日本分断〈1〉 (ジョイ・ノベルス)

日本分断〈1〉 (ジョイ・ノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)
第二次大戦後北海道に樹立された人民共和国が、関東北部まで占領、日本は分断され対立する。南側の情報部員の活躍を通して描く南北戦争

ルポライターの如月健治は運転中の事故で切れた電線に触れて感電した際に気絶してしまい、気づいたらいきなり銃を持った男に襲われ、何とか反撃して生き延びます。
助けに来た健治の部下だという厨川桂子の話はわけがわからずまるで別世界のことのよう。
そこは第二次世界大戦末期にソ連が北海道に侵略してきたことにより、北日本共産主義国家が作られ、アメリカを中心とする国連が支援する南日本との間に戦争が起こり、結果的に利根川信濃川を境として日本が分断されてしまった世界。
いわゆる歴史が変わったパラレルワールドに飛ばされてしまったのでした。
そこでは南側の凄腕情報員・如月大尉であるという健治は表向き記憶喪失ということになり、この世界に少しずつ順応してゆく中で自分がなぜパラレルワールドに飛ばされてしまったのか原因を探ろうとするのですが・・・。


もしも第二次世界大戦末期のソ連侵攻により、史実のドイツや朝鮮半島みたいに日本国内が分断したら?という想定のもとに書かれているようです。
(特に記述はないけれどこの世界では原爆投下はなくて、和平交渉やアメリカの占領政策がゴタゴタしたのかもしれないと脳内補完したが、史実の占守島を始めとする北方領土ならともかく、北海道を占領するほどの兵力を運ぶ船舶はどうしたのかという疑問は残るが)
1995年刊行なんですが、そういえば歴史シミュレーション小説がたくさん世に出た時代でした。
その流行も影響しているのかもと思ったのですけど、主人公が別世界に飛ばされるというパラレルワールドものにしたのは著者らしさかもしれません。
この世界では日本が分断されたことによって朝鮮半島統一国家として繁栄していて、まるで立場が逆転しています。
ただ分断までの経過がそのまんま朝鮮戦争を辿っている上に南側の国名が大和民国(だいわみんこく)ってのはちょっと芸が無さすぎると思わざるを得ませんでした。


主人公は相当軍事色の強い民主国家・大和民国の軍情報部に所属するエージェントということになっていて、その彼の目線から見た、歴史が大いに変わった影響については興味深いところではありましたけどね。経済成長が緩やかでバブルが無かったところとか。
実は分断に至る経過にこそ興味があったのですが、実際は主人公近辺の謀略サスペンスに終始していたのがやや退屈でした。主人公についてもご都合的過ぎるし。
続きがあるのですが最終的には統一までいくのかな?
続編読むかは微妙なところです。