横山信義 『蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣』

蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣 (C★NOVELS)

蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣 (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

戦艦『大和』をもって英国最新鋭戦艦を撃破したものの、日本にはニューギニアを制圧し豪州を屈服せしめるまでの力はなかった。戦場での勝利を積み重ねて敵の継戦意思を折るという戦略に限界を感じた山本五十六は、講和に至る別の方策を探るべく、司令長官を辞して連合艦隊を去る。同時に、開戦以来攻勢を続けてきた連合艦隊は守勢に転じ、長期持久も視野に入れた艦隊編成と人事の刷新を行う。一方、米国は新兵器を装備した艦隊を珊瑚海に送り込んで来た。迎え撃つ新体制連合艦隊に勝算はあるのか―

ポートモレスビーからいったん引いて、ラエにて防御態勢を整えた日本軍。
米軍はオーストラリア北東岸に加えてガダルカナル島でも基地を建設して二方向から航空攻勢をかけてきます。
補給線が短くなったことに加えて潜水艦対策を行ったこと、陸軍航空隊にも協力を願ったこと。それに対して攻める米軍としては距離の関係で充分な護衛が付けられず、思ったような効果は出ないわりには大きい損害が出てしまう様子が描かれます。
しかし、時は1943年に入ったところで、史実でも連合軍有利へと傾いていく時期です。
太平洋戦線でその役割を担ったのは当時の正規空母としては最高の性能を誇ったエセックス級。そして零戦に対して劣勢であったF4Fの後継機として登場したF6Fヘルキャット
一時は稼働空母が一隻だけに落ちこんだものの、本気を出したアメリカの工業力は続々と新艦船を送り込んできます。
いくら日本側の空母群が健在であっても初期のような大勝は難しくなっていきます。

そして生起したのがラエに攻勢をかけてきた米軍とそれを阻止する日本軍との空母部隊同士の戦いでした。
戦闘機と空母が更新されて戦力的に充実したことで敵を舐めていたのか。
史実のミッドウェーを逆にして再現したかのようなミスで攻め切ることができなかった米軍が戦略的に敗北しました。
これも史実では海軍における勝利の立役者であったハルゼーとスプルーアンスが作中では二人とも戦死していることが関係しているのでしょうかね。
沈没したのは軽空母のみ、正規空母はどちらも中破程度という痛み分けで終わったかに見えたところで日本軍は飛龍と龍驤が潜水艦による雷撃で沈没。先に潜水艦を狩っていた水上機の基地が壊滅したために入り込まれていたようです。
もっともアメリカ軍も追跡してきた第八艦隊と夜間の水上砲雷戦、および潜水艦によって、傷ついていたエセックス級2隻が沈みました。
エセックス級が航空戦で沈没しなかったのは、幾度も傷つきながら生き延びて、一隻も沈むことがなかったという史実を反映したのですかね。
これから零戦の後継機が登場予定で、空母も大鳳陸奥(改装)、信濃が就航予定ですが、当然米軍の方がペースが上回っているので苦しくなりそう。
艦船乗組員の被害は米軍の方が多いですが、これからパイロットの消耗は日本の方が増してくるでしょうからね。

一方、ヨーロッパ戦線では史実よりも頑張っていた枢軸軍ですが、連合軍の本格的な反撃によって押し戻されていく様子が描かれました。
北アフリカ戦線は消滅。東方ではスターリングラードから撤退。今後ノルマンディー上陸に相当する作戦も実施されるのではないでしょうか。
ヒトラーにとって起死回生たるV2ロケットもどれくらい効果あるのか?
日本軍としても、今まで大敗はしませんでしたが、沈めた分の倍以上を揃えて来襲してくる米軍にどう対処して、戦争の落としどころを決められるかが次巻以降の見どころでしょうね。