歴史小説を読む際は

歴史小説のお約束というか、慣習的に会話ベースでは諱が使われることはまずありません。
通称や別称、尊称、職称が使われるのが普通ですね。
これは下剋上が起こり、身分や制度が乱れたと思われる戦国時代であっても変わりません。
織田信長の例でいえば、三郎、上総介、弾正忠、先右府、上様、なんてのがありますね。
少なくとも存命中に「信長」、「信長様」と呼ばれることは無かったでしょう。
だから本格歴史小説では地の文ならともかく、会話で「信長」、「信長様」なんて出てきません。
漫画やドラマだとおそらく視聴者のことを考えて、あえて「信長様」と呼ばせている場合もありますが。
それからいくら世が乱れている時代であっても、身分制度や権威は確固としてありましたから、庶民がいわゆる殿様(その地の領主である大名や代官、貴族など)と軽々しく言葉を交わすことなど有りえません。*1
下から意見を通したい場合は段階的な手続きが必要であったというのは現代と同じであり、特に身分の固定した江戸時代に農民が代官に直訴などしようものなら命がけ。
フィクションではそのあたりの慣習や礼儀をすっ飛ばしていることもたまに見られますが。
また会話にしても、親しい間柄はともかく、公式の場では身分関係や場所に沿った言い回しがあったと思われます。
専門家ではないので細かいことまで書けませんが、他にも衣装や食事といった習慣の違い、技術や文化の違い、地形の違い、他地域・他国の認識とか、現代とはまったく違う部分が多かったのは確か。
歴史小説はそういった点を考慮しながらその時代の雰囲気を読者に味あわせるために執筆が難しいものだと言えましょう。
いくら歴史が好きで詳しくなっても、読むのと書くのは大違い。
実際、下手の横好きで現代を舞台にした小説なら少し書いたことありますが、さすがに歴史小説は書こうとは思いませんでしたね。


ここ2年ほどは出版される書籍以外にいわゆるネット小説も読んでいます。
2年くらい前の記事。
近頃ハマっている読み物
やはり数は多くとも玉石混淆。
いくら設定が面白そうでも、時代背景が等閑にされていたり、会話を含めて人間関係の描写があまりにも現代風だと萎えてしまって読む気にはならなくなります。
そんな中でも時代考証や時代背景の描写はプロには及ばないものの、歴史好きな読者としても充分読み応えある小説もあります。
最近楽しみにしているのがこのあたりですね(今年更新されているもの)。
尼子の姫
現代人の男性が滅亡十数年前の尼子氏の姫(巫女)に転生。現代知識を神からの宣託として広めて内政開発に励む。そして史実で尼子を滅ぼした宿敵・毛利と対決する。
陶都物語〜赤き炎の中に〜
岐阜県の陶磁器製作の中小企業社長であった中年男が死後に幕末に転生(士分ではあるが半農で貧しい家)。美濃の陶磁器がこれから一時の隆盛と凋落を迎えることを知り、陶都としての歴史を変えるべく、時代の常識を超えた陶磁器作りに奮闘する。その過程で来日した外国人や幕府の要人と出会うことに。
信長の弟 織田信行として生きて候
兄・信長によって謀殺直前の織田信行に現代人が憑依。目の前に迫る死を回避すべく、歴史を変えることを承知して自らの生き残りのために兄と対決する。
狐の花嫁
現代人→戦国時代の女性に転生。石田三成の嫁になる。主に女性観点による現代知識により主に内政や交友関係で史実を変えてゆく。
銭の力で天下取り【連載版】
熱田商人の子に転生した主人公が桶狭間の戦いで一躍金儲けしたついでに信長に目をつけられ、その覇業を助けることになる。
日本合藩国物語
転生者によって豊臣家と幕府の関係が変わり、鎖国ではなく海外交易や浪人たちによる海外進出が継続され、史実とは大幅に変わって環太平洋に広がった日本人と日本合藩国を巡る世界の行く末を綴る歴史読本。 ※転生者自体は第三者観点で簡単に綴られるのみ。


これ以外にも途中で読むのをやめてしまった小説、すでに1年以上更新が止まっている小説も結構あります。
ふと思ったけど、やっぱり戦国時代がメイン。ついで幕末や近現代といったところで、もっと前の時代を扱っている小説は無いですね。ちゃんと探せばあるのかもしれないかな。

*1:いわゆるお忍び行や領内視察で上から声をかけることはあっただろうけど