10期・51冊目 『都市伝説セピア』

都市伝説セピア (文春文庫)

都市伝説セピア (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
人間界に紛れ込んだフクロウの化身に出会ったら、同じ鳴き真似を返さないといけない―“都市伝説”に憑かれた男の狂気を描いたオール讀物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」をはじめ、親友を事故で失った少年が時間を巻き戻そうとする「昨日公園」など、人間の心の怖さ、哀しさを描いた著者のデビュー作。

アイスマン
田舎の親戚で休養中の「私」がある夜、夏祭りに行った際に客引きの少女に誘われてこっそりと営業していた見世物小屋に入る。その一番の目玉は河童の冷凍死体だという。
「昨日公園」
公園で遊んでいた主人公は帰宅後、一緒に遊んでいた友人が交通事故に遭って死んだと知る。
翌日、悲しみの中で街を放浪していた主人公は、公園の前を通りがかった際に不思議な光景を見る。まるで昨日と同じ出来事が繰り返されていたのだった。
「フクロウ男」
夜中に突然現れ、フクロウの鳴き声を同じタイミングで返さないと殺されてしまう。
恐怖のフクロウ男に憧れた「私」は本物の都市伝説を作ろうと決意する。
「死者恋」
死体を描くという画風からマニアックなファンから高い評価を受けている女流画家・鼎凜子の回顧談。
それは夭折した画学生を巡る女同士の異常な争いだった。
「月の石」
ある朝、電車の窓の外を眺めていたら、あるマンションのベランダからリストラで退職した部下がこちらを見ているのを発見する。
そして母が孤独死したと知った翌日にはそのマンションのベランダにはこちらを見る母の姿があった・・・。


著者得意の昭和を舞台としたノスタルジック・ホラー集なのですが、これがデビュー作とは思えないほど完成度高いです。
ここで取り上げられているのは一見、人外のようであっても実は人の心が抱く怖さだったりするのがたまりません。
そしてイメージが湧きやすい内容のせいか、ドラマ化されている作品もあるようですね。
アイスマン」は今のようなインターネットが無い時代の好奇心をそそる見世物小屋の怖いもの見たさに加えて淡い恋愛じみた想いが重なって、とても懐かしい雰囲気が漂います。
「昨日公園」は同じ一日を繰り返す時間遡行もの。かつて子どもの頃に友達と遊んだ懐かしさと、親になって娘と公園に遊びに行った思い出があいまって非常に親近感が湧く上に、その結末の哀愁もあって一番好きですね。
「フクロウ男」自ら都市伝説を作ろうとするさまが面白くもあったけど、やや安易な点も感じてしまった。オチにびっくり。
「死者恋」女の執着心の怖さを思い知らされる作品。登場する女性のうち、しのぶの行動は始めから常軌を逸しているが、うぶだった凜子の豹変によるラストも怖い。
「月の石」はある意味ホラーではあるが、最後にほっとするというか、心動かされる話。幽霊や妖怪は人の心を映す存在だというのがよくわかります。
不気味な作品が続いて最後にこれを持ってきたのが良かったですね。