9期・41冊目 『夢魔の通り道』

内容(「BOOK」データベースより)
「夢」と「現実」の隙間から這い出してくる虫。あらゆる生物が生きたまま腐敗する世界。たった一日で悟りを得られる宗教の流行。植物と交わる女。子供を教育することが許されない未来、突如おのれの寿命を悟ってしまう人々の出現、永遠に終わらない悪夢の中に閉じこめられた男etc、etc…。轟音とともに、この世界が崩壊する。13の研ぎ澄まされた悪夢の剣。ホラーファン待望の精選短編集。

初めて読んでみた作家・村田基のホラー短編集です。収録作品は以下の通り。


「裂け目」
少年は眠りに落ちるか落ちないかのタイミングで避け目の夢を見る。その中には三葉虫のような生き物が住みついていた。
やがて夢は現実となり、裂け目から出てきた生き物は人々を喰い始める。
「腐敗都市」
生きながら体が腐敗し、やがて死に至る病気が蔓延しだした。
潔癖症の主人公は早々に食料や薬などを蓄えて自宅マンションに籠り生き残りを図るが、社会は確実に崩壊していった。
「柱時計のある家」
事故による長い昏睡状態から目覚めた女の子。体は成長を続けて二十歳になったが精神は事故当時の十歳のまま。
家庭教師として雇われた大学生の主人公は勉強だけでなく、二十歳相応の一般常識などを教えることになる。
「すばらしき正義の国」
医療技術が高度に発達した未来、凶悪犯罪の取り締まりに限界を感じたアメリカ政府は経済的損失を招く犯罪以外は罪に問わなくなった。
そして人は脳や心臓を破壊されない限り、瀕死あるいは死んでしまっても、救助隊が駆けつけて蘇生させてしまう。
「植物画」
登山途中で捻挫した挙句に道に迷った主人公は山中で絵を描いていた女性に会い、家に泊めてもらう。
美人だが感情の起伏に乏しい彼女であったが、夜中に不審な行動を取ることに気付く。
「悟りの時代」
人工的に悟りが得られるようになって、無理せず執着せず自然な生き方をしようとする社会。
「つるつる」
空から発せられた怪光線によって地面や壁などがつるつるになってしまい、各地で事故発生。
「みにくい美女」
連れ子同士の再婚でどちらも女の子であったが、明らかに美少女である父親の子を母親は醜い容姿だと刷り込んで育てていた。
「最後の教育者」
年齢による区別と義務教育が廃止され、極端なほど子どもが放任されている社会。
そんな中で厳しい教育者だった主人公は職を失い、世の中を嘆いているのだが、ある日放置虐待されている女児に出会う。
「個性化教育モデル校」
偏差値教育の反動で個性を大事にするモデル校が作られ、そこへ転校してきた主人公。彼はまるで個性というものが無い生徒だった。
「生と死の間で」
ランダムに死亡する年齢が啓示されるようになった社会。7年後の35歳に死ぬことがわかった主人公は向いていない仕事を辞めて今後の生き方を模索する。
「忘れ物」
リゾート地で老後の生活を送る夫婦。揃って出かける際に夫はいつも忘れ物をしていないか気にしていた。働いていた時の習慣ではないかと妻は思っていたが、夫には封印された幼い頃の記憶があった。
「覚めない悪夢」
少年は平凡な暮らしの中で何度も悪夢を見るようになる。やがてそれは現実か夢なのかわからなくなってゆく。


いずれもありふれた日常を描きつつも、前触れもなく登場する怪異だったり、狂気に冒された人間であったり、極端な思想がはびこったディストピア世界であったりとバラエティ豊かです。
まぁだいたい登場人物が不幸な結末を辿るわけですが、中には「生と死の間で」や「忘れ物」のようにほのぼのとした(?)愛情を感じさせる結末の作品は新鮮味があって良かったですね。
実は途中で飽きるかな?と思ったのですが、意外と最後まで楽しめました。
昔読んだ筒井康隆小松左京のSF・ホラー短編集を彷彿させる雰囲気があったからかもしれません。
「柱時計のある家」や「みにくい美女」のように普通の人が狂気に蝕まれていくストーリーは嫌悪感を感じつつも止まらない怖いもの見たさがありますね〜。
ただ怖いという意味では「覚めない悪夢」の救いの無さが一番だったと思います。