6期・28冊目 『時間砲計画』

時間砲計画 (講談社青い鳥文庫)

時間砲計画 (講談社青い鳥文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
科学の大発見が人類を幸せにするとはかぎらない。使い方しだいで、人の味方にも敵にもなるのだ。世界的科学者・西条博士が発見した素粒子は、物体をほかの時空へ移動させるものだった。これを史上最悪の兵器として使われた、映二と亜由子たちは、10万年前に送られてしまう。過酷な世界で生きられるのか、現代に戻れるのか、犯人は誰だ!?小学上級から。

もとは小学校高学年から中学生向けに書かれたジュブナイルですが、著者のその後の作品系統がわかるような時空を超えた冒険アクションとなっていますね。
電子工学の世界的権威である西条博士が発見したオメガ粒子。物体にそれを浴びせるとたちまちのうちに消えうせ、一瞬のうちにどこかに移してしまう。
大変な発見ではあるものの、悪用されたら現在の武器が無効化されてしまう恐れがあるとこのこと。「科学の大発見が人類を幸せにするとはかぎらない」というのは未だ冷戦の最中であった時代を感じさせます。


主人公・映二は同級生である博士の娘・亜由子との縁でその世紀の発見に立ち会い、その後の騒動に巻き込まれてしまいます。
もう一人のオメガ粒子発見者であるライアン教授を迎えにいく際に、ジェット機ごとオメガ粒子を利用した時間砲を浴びせられ、なんと約20万年前の時代へタイムスリップしてしまう。
未開のジャングルと原始的な動物が生息する時代の日本で戸惑いながら人々が力を合わせて生きていくさまは年少向けといえどなかなか楽しませてくれます。数百人の大群で襲ってくる明石原人なんて「猿の惑星」を思わせますな。古生物の宝庫とも言える時代に来ていちいち喜ぶエッケルト博士がいい味だしてる。
苦労の末現代に戻ってきて、時間砲を悪用したのが元助手である武部であることが判明するのですが、これがまた典型的な悪人で笑えます。その討伐作戦はなんか無理やり感を感じてしまいますね。ところで時間砲の時間設定には何も触れられていないので、彼がどこに跳んでしまったのかが気になります(続編で明かされるのだけど)。


後半に収録されているのが『霧の中のとびら』。
中学生の主人公たちが謎の物音の正体を突き止めるために夜の校庭で見つけたのが見慣れぬ飛行機。
三十数年の時を超えて霧の中から登場したのは戦時中の戦闘機・疾風でした。
タイムスリップしてきた疾風のパイロットと主人公たちの先生が戦友だったという奇特なエピソードが描かれます。
先生が戦時中に絶体絶命のところを救われた事情がわかる切ない結末ですね。