4期・22冊目 『大江戸神仙伝』

大江戸神仙伝 (講談社文庫)

大江戸神仙伝 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
突然160年前の江戸にタイムスリップしてしまった速見洋介。腕時計を売って得た金千両で、辰巳芸者いな吉と世帯をもち、つつましくも心豊かな人々と情緒あふれる自然に囲まれて、江戸の町に愛着を抱き始めるが―。綿密な時代考証を駆使して、江戸の町並み、暮しぶり、情景を鮮やかに活写。“夜明け前”の日本から、繁栄にゆがむ現代日本の在り様が見えてくる、異色のSF小説

数あるタイムスリップものの中でも、その時代を知るにつれて惚れ込んでしまうという展開はよくありますが、これほどのものはそうそうないでしょうね。
主人公はもともと宝暦以来代々の江戸っ子の家系で、子供の頃の記憶を引き起こすような江戸の街並みや人情に懐かしさを感じることができたというのと、タイムスリップした先での出会いに恵まれていたというのもあります。


巻末に並んでいる参考資料の多さに見られるように、情景描写や会話といった細かい部分まで時代を再現しようとする著者の努力は大したもので、現代人・速見洋介が味わう江戸情緒は読むものにリアルに迫ってきます。テレビで見る時代劇など顔負けですね。
そして、治安の良さや資源の循環を自然に社会に取り入れていたことも含めて江戸の良さが確認できる作品です。


各章ごとに時代解説が入るのは親切でもあるのですが、ついでながら現代文明批判が多いのがちょっと気になります。確かに日本人は歴史文化を大事に保存するのが苦手なのは同意ですけどね。それでも作品全体には明るさがあって、主人公の能天気な行動には勝手さ(羨ましさ?)も感じながらも、どうなるのか最後まで気になって読んでしまいます。
主人公が過ごした文化文政の頃は江戸時代でも特に安定していた時期で、江戸住まいの生活に余裕ある町人ならは過ごしやすかったのだろうけど、これが地方の武士や農民だったらまた別だったのかもしれないなとつい意地悪な疑問は残りましたけどね。