2期・26冊目 『吸血蟲』

吸血蟲 (角川ホラー文庫)

吸血蟲 (角川ホラー文庫)

本書は2000年に新書版で刊行された『呪葬』を多少の加筆訂正を加えて文庫化したもの、と解説にあります。
そういう私は『呪葬』は既読だったのですが、あらすじを見た時に気づかず、購入して数ページ読んだ時点でやっと、「なんか読んだことあるなぁ」と気づいたのだからボケてますね〜。
そもそもタイトルを変えるのはどうなんでしょう。そりゃいかにも日本的な怪談をイメージする『呪葬』より、『吸血蟲』の方が内容を表してますが。いかにもホラーっぽいのは変わらないか。


さて、陸の孤島と化した山村にて、蘇った死者が徘徊して人間を襲う(血を吸う)という話。ある有名作品を思い浮かべます。
小野不由美屍鬼』ですね。
発表された時期も近く、スティーブン・キング呪われた町』のオマージュ的作品というのも共通しています。
化け物(とあえて簡略化)の正体も、人間との戦いの様相もまったく違う2作ですが、どちらが良いとは述べません。あえて比べればホラー・エンターテイメントとして気軽に読みきる分には本作の方かな、と思います。


ただ読み返してみると、随所にいかにもホラー映画的な陳腐さは目につきましたね。
それに主人公である3人に密接な関係のある人物(家族とか)の扱いがあっさりし過ぎていて。ちょっと端折りすぎかなって思いました。
更に主人公の1人である刑事は、暗闇恐怖症であることが重要なキーポイントとなっています。しかし、せっかく山場である廃抗に踏み入った場面のあたり、暗闇との葛藤がぼやけてしまってますね。『呪葬』の時とはラストが変えてある(後述)せいもあるかな。
それに対して、非常に鮮やかなのが両親が化け物になってしまった小学5年の少女の闘いですね。生き抜くことを決心した少女が迫り来る化け物から逃げまわったり、ついには追い詰められて戦うあたりは非常にハラハラドキドキします。


さてラストですが、主人公の刑事がどうなるかが違います。
『吸血蟲』は3人ともノーマルに助かり、ハッピーエンド。
『呪葬』では、最後の戦いで化け物を倒すところまでは一緒ですが、どうやら刑事は蟲に取り込まれた気配が濃厚な感じで、不安を残して終わります。


「今度はぼくが、闇そのものになるんだ」
その目に一瞬、赤みがさしたような気がした。
亜希子はドキッとした。
「史郎さん。もしかしてあなた・・・」
茉莉花が亜希子の腰にしがみついた。


いやぁ、やっぱりB級ホラーっぽいですね。