2期・25冊目 『パニック・裸の王様』

パニック・裸の王様 (新潮文庫)

パニック・裸の王様 (新潮文庫)

「パニック」
「巨人と玩具」
「裸の王様」
「流亡記」
と、4編の短編が収められています。発行されたはいずれも昭和30年代前半ですから随分昔の作品なのですね。
開高健という作家はこれまで読んだことがなかったですが、今回読んだものはいずれも20代に書かれたらしいですよ。これはすごい。


個人的に良かったのは、表題にもなっている「パニック」と「裸の王様」。
派手ではないけれど、じっくり読ませる巧さを感じますね。
最後の「流亡記」は中国・戦国時代末期から秦の時代にかけての名もない民の物語ということで興味深く読み始めましたが、途中でどうにも退屈になってしまいました。

「パニック」

120年周期で異常なほどに実るというササ原。現代では誰も見向きもしない笹の実によって大量発生した鼠に襲われる地方都市。
鼠の習性による着眼点が面白い。それ以上に、警鐘を一笑に付して当面の体面繕いに明け暮れ、いざ被害が大きくなると右往左往する行政側の醜さが印象深いです。
現象としてのスケールとしては大きくないけれど、人間を恐れなくなった鼠が街中を狂ったように荒らしていく様が怖いですね〜。

「裸の王様」

ずいぶん前にid:booboo_002さんに教えてもらった作品。ようやく読むことができました。
絵画教室で絵を教える主人公がひょんなことで固く心を閉ざした子供の面倒をみることになって・・・。


仕事に熱中して家庭を省みない父親というのは20年くらい前までならばそう珍しい存在ではなかったとは思うのですが、むしろ継母との関係が複雑ですねぇ。虐待などしているわけではなく、むしろ充分愛しているつもりなんでしょうが、どこかずれている。
その歪みが子供へいってしまうわけで、物語とは言え、つくづく子育てって難しいなと思うのです。
主人公によって、固い殻に覆われた子供の心が解けていく様が微笑ましいですね。


そして山場は実質父親が主宰する絵画展の審査会場。
言葉を弄する審査員達が、まるで見えない服をよく似合うと諂う幇間のようで滑稽。最後に「裸の王様」だと明かされてしまった父親のくだりは痛快さを通り越して哀しささえ感じました。