47〜49冊目 『黄土の夢(上・中・下)』

黄土の夢〈第1部〉明国大入り (講談社ノベルス) 黄土の夢〈第2部〉南京攻防戦 (講談社ノベルス) 黄土の夢〈第3部〉最終決戦 (講談社ノベルス)
作者: 中嶌正英, 田中芳樹(原案)
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 1995/05〜1998/07
メディア: 新書

再読です(多分3回目)。
以前、鄭成功が主人公の白石一郎『怒涛の如く』を読んで、再び本作を読みたくなったのと、前月末から金欠の為でもあります(^ ^;


中国大陸では、北方に勃興した女真族の清が明を滅ぼし、日本では江戸時代の初期で3代将軍家光の時代。
幻に終わった明国からの援軍依頼を徳川幕府がもし受けていたら、というところから物語は始まります。
武断政策の結果、国内に溢れる浪人対策に苦慮していた幕府としても、まとめて国外に追い出せる妙策かと思われたのですが、更に徳川家光の性分、未だ残る戦国の気風として、実際にあり得た話でもあったわけです*1


先発隊として編成された約2万の牢人軍を率いる大将として任命されたのは若干18歳の水戸徳川家の嗣子・光圀、軍師として楠流の軍学者由比正雪(丸橋忠弥・金井半兵衛といった門下生も当然参加しています)、監察役として柳生十兵衛三厳。そして彼らを海上から援助し、時には鉄人隊を指揮して戦う鄭成功
そんなキャスティングだけでも何だか期待できますね。
更に西国諸藩と旗本からなる10万以上の幕府正規軍を率いるのは紀州藩主・徳川頼宣に軍監として軍学者北条氏長山鹿素行といった面々が登場します。*2


見所は陸兵の火力の上では当時の世界トップレベルだった日本軍と、精強なる騎馬軍団の清軍との戦いです。
長篠の戦い」で見られるように、既に騎馬より銃が優位の時代じゃんと思うのは狭い日本だけの話。
だだっぴろい中国大陸では城郭防御でならともかく、大会戦の場合には戦い方によって騎馬が銃を圧倒することもあります。まして清軍は数は少なくとも優秀な将兵が揃い、元々集団騎馬戦法を得意としていましたから。


迫力のある戦場のシーンだけでも読み応えありますが、旧豊臣家浪人による倒幕の企みや、明(亡命政権)と清それぞれの宮廷内部の権力闘争も絡んで、目が離せない展開となっています。
発売された当時、上中下巻が刊行されるペースがかなり間が空いたことを記憶していますが、筆者の言い訳?通りそれだけよく資料を調べた上で、人物像や日・中の文化の違いなどが巧く書かれていて、再読でも充分楽しめた作品でした。


本作に出てくる人物としては、非常に有能なる清の摂政・ドルゴン*3、と、徳川光圀の軍師役を務めた由比正雪*4が気に入っていますね。

*1:史実では明国側の宮廷の都合で、依頼者の身分がさほど高い人物でなかったので、日本側としては信用できないとして無視された事情があるらしいです

*2:ここまで来ると、山田風太郎魔界転生』にキャストがややかぶっていますね

*3:皇帝(順治帝)の義父であるが、息子との確執を抱えて・・・。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%B3

*4:江戸時代では乱を企んだ為に大悪人とされていて、『魔界転生』では如何にも小人物的でしたが、作中では名軍師役で書かれています。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B1%E6%AF%94%E6%AD%A3%E9%9B%AA