11期・27冊目 『美森まんじゃしろのサオリさん』

美森まんじゃしろのサオリさん

美森まんじゃしろのサオリさん

都会の灯を離れた山すその美森町。美森さまという神さまと、それを祀る卍社を戴く、限界集落寸前の小さな古い町だ。若き肉体派なんでも屋・岩室猛志と、地元出身の美人女子大生・貫行詐織は、町役場からの依頼を受けて、住民たちが巻き込まれた事件の解決にあたる町立探偵〈竿竹室士〉というユニットを組んでいる。ところが、詐織には、猛志にも知らせない思惑があるようで……。

舞台となるのはG県*1の山すそにある美森という合併によって町制は取っているが、実態は年寄りばかりで60近い役場職員が若手とされる限界集落寸前の過疎の村。
大学入試に失敗して不遇をかこっていた岩室猛志は母親から実家の維持管理のために美森町で暮らすことを命ぜられ、そこで恵まれた体力を活かして何でも屋として働いています。
そんな猛志を振り回すのが地元出身で一つ年上の美人女子大生・貫行詐織。
なぜかいっこうに大学に通っている様子はなく、猛志と二人で「竿竹室士」という探偵ユニットを組んで、町で起きる怪事件の解決に奔走することになったのでした。


事件の数々は美森卍社(みもりまんじゃしろ)の奥に納められている屏風に描かれたおかしな生き物たちがモチーフになっています。
死亡直後の老婆の遺体が起き上がって庭のブランコまで歩いた「まんじゃしろのふしみさん」
お年寄りの一人暮らしの家に浴衣姿の童を見かけたという「いおり童子とこむら返し」
無人宅配食サービスで特定の曜日だけ宅配事故が起こる「水陸さんのおひつ抜き」
町に移住してきたコミュニティ「スンダッタ」の共同住宅周辺に起こる異変「救母ヶ谷の武者けぶり」*2
十年以上前に途絶えた歳祭りを詐織と猛志が中心になって新しい形で作ろうとする「美森まんじゃしろの姫隠し」


それぞれの短編に出てくるのは農作物を守るための獣除けのプログラム制御された動作ワイヤーとか、無人宅配車といった、現在の技術ですで開発されていて、近い将来過疎の村でも普及していそうなハイテクの数々。
それが事件の鍵を握っていたり、解決に役立っていくわけです。
実際に神様がいたり妖怪が跋扈していそうな人も疎らな田舎の風景が目に浮かびますが、そこで事件解決に活躍する21世紀の最新技術。そういった組み合わせが新鮮な試みといえましょう。


一つ一つのエピソードで猛志や詐織の美森に対する感じ方の変化が少しずつ積み重なっていき、最後のエピソードで集大成となる構成も巧いものです。
見た目は怖いが町に溶け込もうと体を動かし努力する猛志の姿は好ましい。
その一方で詐織のミステリアスなところは猛志ならずとも非常に気になる存在ですね。
都会の人間関係でストレスを抱えこみ、そのリハビリとして田舎に戻ったらしいのですが、その内情とか、人名にふさわしくない「詐」(うそを言う、いつわるという意味)を付けた父親のことなど気になる点が残されたままなので、もしシリーズ化したら出てくるのでしょうか。続編が出たらぜひ読んでみたいですね。

*1:群馬県ではなく岐阜県と思われる

*2:「けぶり」は火編に困