7期・65冊目 『天冥の標5 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河』

内容(「BOOK」データベースより)
西暦2349年、小惑星パラス。地下の野菜農場を営む40代の農夫タック・ヴァンディは、調子の悪い環境制御装置、星間生鮮食品チェーンの進出、そして反抗期を迎えた一人娘ザリーカの扱いに思い悩む日々だった。そんな日常は、地球から来た学者アニーとの出会いで微妙に変化していくが―。その6000万年前、地球から遠く離れた惑星の海底に繁茂する原始サンゴ虫の中で、ふと何かの自我が覚醒した―急展開のシリーズ第5巻。

24世紀、小惑星地帯にて農業を営む40男のタック・ヴァンディの物語と、まったく時間的空間的に離れた6000年前のある惑星にて自我に目覚めたノルルスカイン*1の物語が交互に展開される内容となっています。
タックのもとには反抗期に突入したザリーカという娘がいて、農作業に明け暮れる日々に嫌気がさして度々脱走する癖があり、独身と思しきタックはその取扱いに困惑する始末。
ただでさえ零細農家のタックにはガタが来た装置のメンテナンスや大手企業の脅威など悩み事が多いのに、それに加えて年頃の娘の行動に振り回される様はなんだか他人事と思えません。
一方、惑星住民であるサンゴ虫の進化を神の視点で見守り続けるノルルスカインは、掴みどころの無い存在ですが、生物もしくはそのネットワークに寄生する被展開体という存在であることがわかります。
とあるきっかけで宇宙に飛び出し、他の生物のネットワークに取り込まれた際に同類であるミスチフと出会い、様々な知識を吸収してゆくのです。


パラスを訪れた際の不時着事故に関わった関係でタックのもとに同居し、なぜか農業を手伝うことになった学者アニー。ザリーカの出生にまつわる秘密と彼女を追う不審者。
そして広大な宇宙を放浪していたノルルスカインが再会したミスチフのもとでは極めて頑強狡猾に進化したツル性の植物が生物としての頂点に立ち、接触した他の惑星住民を貪欲に取り込もうとしようとしていた…。
タック周辺でのまったく個人的な事象ながらアクシデントが絶えない日常、かたや銀河単位での種の生存競争を描いたスケールの大きさ。
始めはまったく無関係に見えた二者のストーリーがやがて24世紀の太陽系にて結びついてゆくさまは見事としか言いようがありません。
それに加えて、種を超えて懸命に生きるものに対する筆者の温かな視線が垣間見えるのが好感度を増しているのではないでしょうか。
ドロテア・ワットなどの以前の伏線が徐々に明らかになっていくのは長編シリーズならではの面白みであり、それでいて新たな謎も出てきて楽しみは尽きませんね。

*1:第1巻にて主人公の敵か味方か不明の人物として登場してた