7期・50冊目 『天冥の標2 救世群』

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
西暦201X年、謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子は、ミクロネシアの島国パラオへと向かう。そこで二人が目にしたのは、肌が赤く爛れ、目の周りに黒斑をもつリゾート客たちの無残な姿だった。圭伍らの懸命な治療にもかかわらず次々に息絶えていく罹患者たち。感染源も不明なまま、事態は世界的なパンデミックへと拡大、人類の運命を大きく変えていく―すべての発端を描くシリーズ第2巻。

人類が宇宙に進出した遠い未来、植民惑星での出来事を綴った第1巻と打って変わって2巻は現代世界が舞台となっています。
リゾート地として有名なミクロネシアの島国パラオ。そこで突如発生したのが非常に致死率の高い感染病でした。
日本から先遣隊として駆け付けた国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子はじめ、派遣された医師たちの努力により数多くの犠牲者を出しながらもなんとか感染は制圧されたかに見えたのですが、すでに別のルートでフィリピンやオーストラリアなど各国に広まり、世界的なパンデミックへと拡大していったのです。


1巻が非常に気になる終わり方だったので「あれっ?」とは思いましたが、読み進めていく内に1巻と共通するキーワードが出てくることに気づきます。
例えば、感染病の名前の「冥王斑」。第1巻にてセナーセー市で突如始まった病気と同じようです。
また、パラオにて児玉医師らが出会ったカナダ人の少年・フェオドール。医薬品メーカーの御曹司ながらAI(人工知能)の研究にハマっていて、そのアバターは石造りのタイヤを重ねたようなロボット。これも第1巻にて実物が主人公セアキ・カドムの助手兼ボディガードとして登場します。
セアキが失われた技術による冥王斑のデータを持っていたのも、その医師の家系として後々なんらかの繋がりが描かれるのかもしれないですね。


世界各国が冥王斑の脅威に立ち向かう状況の中、児玉・矢来医師もそれぞれ世界中を飛び回って仕事に忙殺されるのですが、なんといっても後半の中心人物は日本人初の回復者である檜沢千茅です。
家族とともに訪れたパラオにて冥王斑に感染してしまい、瀕死のところを児玉医師の献身的な看護によって奇跡的に回復するのです(両親は絶命)。しかしこの病気は回復してもなおキャリアとして体内にウイルスが残り根治不可能のために帰国後も研究と事後観察を兼ねて特別な施設に一人隔離されてしまいます。
普通の女子高生が突然悲劇のヒロインになってしまうわけですが、後々にも発揮される、彼女の障害を乗り越えてゆく精神的な強さが印象的です。
冥王斑感染から奇跡的な回復を遂げた後に劇的に環境が変わったことが彼女を変えたのでしょうか。次々と隔離される冥王斑回復者が増えるに連れて、年少者ながらそのまとめ役となり、やがて運命に翻弄されながらも冥王斑患者群連絡会議の代表にとなってゆくさまは目が離せません。


「冥王斑」という未知の、そして克服困難な感染病のアウトブレイクを描いた2巻だけも充分に独立して楽しめる長編なのですが、これが壮大な物語の(時系列的に言うと)序章として伏線が散りばめられているのがわかります。
でもって第3巻はまったく別の話が展開されるようですね。