7期・33冊目 『聖徳太子の叛乱』

聖徳太子の叛乱 (歴史ifノベルズ)

聖徳太子の叛乱 (歴史ifノベルズ)

内容(「BOOK」データベースより)
時は六世紀。用明大王の死後、大和では蘇我氏物部氏の権力抗争が激化していた。排仏派の物部氏は穴穂部王子と結んで蘇我馬子を滅ぼし、王子を大王に、自らは大臣となり仏教徒狩りを始めた。彼らにとっての脅威は用明大王の子・厩戸王子。暗殺を企てる大王とかつての妻・刀自子妃、そして物部氏の手からかろうじて逃れた厩戸王子は、仏教徒とともに大王を倒すべく立ち上がる…。

宗教が絡んだ権力闘争の末に蘇我氏物部氏を倒し、仏教が容認されていったということは史実として知られています。そして聖徳太子は摂政として国政に携わる中で、仏寺建立などで深く関わっていたということも。
そこでもしも排仏派の物部氏が勝っていたら?という歴史のifを描いた作品となります。実は軍事力に劣っていた蘇我氏が勝てたのは非常に際どいタイミングだった上に、歴史浅い仏教信仰よりも日本古来の神を信仰する勢力が強かっただけに仮定としても充分有り得たことがうかがえますね。


そんな本作の架空世界において、クーデター時に仏教容認派だった天皇一族は殺されるか追放されてバラバラ。聖徳太子と呼ばれる前の若き厩戸王子は一人逃避行を続け、生きるために港で働いたりして皇族とは思えない苦労しているようです。
父・用明天皇から教わったばかりで未だ仏教への信心薄いのに、地下に潜る崇仏勢力の象徴とされて、権力者から追われる身という状況です。


外交・内政に携わった政治家として文官的なイメージ的がある聖徳太子ですが、若い頃は軍事作戦にも加わっていたとか。実際にこの中の厩戸王子は黒馬にまたがり剣を振り回すさすらいの武人として描かれていますね。ただ若さゆえに未熟なところがあり、そこは仏教を篤く信仰する人々との出会いと刺激を受けたことによって成長してゆく様が見られます。なんだか女性関係では流されやすく、優柔不断ですけどね(笑)


やがて物語は仏教留学をしていた二人の尼僧が百済から帰国するタイミングにて、捕縛・処刑せんとする暴君・穴穂部王子、大王側ながらこっそり保身を図る物部一族、何としても保護しようとする仏教勢力の争いがクライマックスへ。その渦中に身を投じる厩戸王子。
この中で大王を唆し血を見るのが好きな悪女として描かれる刀自子妃(厩戸王子のかつての妻)が一方でわが子の身を案じるごく普通の母親の顔を見せたりするのが複雑でありますね。*1
一般的な聖徳太子のイメージとはだいぶ違うので戸惑うというか、なんだか煮え切らない態度に多少イライラしたりもしましたが、ほとんど名前しか知らないような古代の皇族はじめとする人物たちがより人間らしく描かれていて、ぐっと身近には感じられましたね。ちょっと性に奔放すぎるだろ*2、という気がしないでもないですが。
で、ラストで聖徳天皇として即位した厩戸王子なのですが、今度は仏教を重んじる反動で神道が排除されるというオチは笑えないユーモアですな。*3

*1:歴史的に評価が悪い人物ほど家庭では立派だったりという二面性は珍しくない

*2:現代ではタブーな関係とか

*3:宗教のことも含めて、世界史的なパロディが散見される