5期・80冊目 『滅びの宴』

滅びの宴―長編小説 (1980年)

滅びの宴―長編小説 (1980年)

内容(「BOOK」データベースより)
突如大発生し、甲府市を殱滅した数十億匹のネズミの大群は、二年前に滅び去ったはずであった。しかし、強靭な生命力をもつ彼らは、歳月を経て蘇った。二十億のネズミが、ついに多摩川の防衛ラインを突破!さらに過激派の破壊工作により、首都・東京は火の海と化した…。『滅びの笛』に続き、鬼才が世に問う衝撃の長編警鐘小説。

前作『滅びの笛』で甲府市始め山梨県全域を襲い、人間たちに多大な損害を与えた鼠の大群は首都圏に向かおうとしたところでまるで増えすぎた余りに自滅したか、あるいは自然のバランスによって消え去ったかに見えました。*1
しかし、2年の時を経て相変わらず自然破壊を行う人間たち。そして一斉開花したクマザサの実を食べて大量復活の兆しを見せる鼠群。前作にて活躍した右川博士による警告もまったく相手にしない政府。そしてなぜか秩父奥多摩の山中では山小屋が閉鎖し、入山したハイカーらの投石被害が出ていたという出だし。
実は鼠群の首都圏侵攻を想定して着実に迎撃計画を立てていたものの、表面上は鼠群は襲って来ないものとし、真相が漏れてパニックが生じないようひた隠しにしていたのでした。
結果的には、もう地震や台風のような天災として官民あげての対策を取った方が良かったのではないかと思ったのですが、そこは東京という大都市の脆弱さゆえに難しかったでしょうか?


そしてついに山間部の餌を食べ尽くし、人家のある地域へ出現し始めた鼠群。初っ端から容赦なく家畜も人も生きているものは全て喰らいながら移動する。数百数千万にのぼる鼠群の襲い来る描写は相変わらず凄まじいです。事前に殺鼠処分のために山入りしていた自衛隊のレンジャーでさえその数の前には太刀打ちできません。山野を覆う鼠群は恐れを知らないまったく違う生き物のよう。
何十億という鼠群の多摩地区への侵攻が確実となり、かねてから準備していた迎撃計画が実施されます。そこは前作と違って自衛隊機によるナパーム弾や火炎地雷弾といった兵器、そして高圧電線による二重の防御陣にはさすがに防ぎきれるかと思いました。しかし今回は鼠群の規模も違う。史上初とも言える決戦は人間の英知を超えるもので、虚しく敗れてしまうのでした。


そこで舞台は急展開。避難勧告が出ていた八王子市にてシンナーに酔った若者の放った一発の銃弾によってプロパンガスのタンクからガスが漏れて大爆発。それを皮切りに都下でも過激派による破壊工作によって燃料列車が爆破。たちまちのうちに新宿を始めとする都心は火に包まれ、人々はパニックとなりある者は暴徒と化し、ある者は逃げ惑い業火に焼かれる。
鼠群による都心侵攻を前に東京は内部から崩壊。そこからはもう無政府状態となり、混乱に乗じて略奪や婦女暴行を繰り返す男たちと被害を受ける女たちの描写が中心になってしまいました。鼠群はどこへいったのかというほどです。
『滅びの笛』では混乱を収拾するために命がけの活躍をした右川博士や片倉警視。それを買われて政府に迎えられて今回もそれなりに出番はあるものの、しり切れトンボになってしまったのが残念です。
東京が滅び行く様を書きたかったのはわかるんですけど、最後まで鼠群との戦い一本にしてほしかったですね。