5期・22冊目 『幻夜』

幻夜 (集英社文庫)

幻夜 (集英社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
1995年、西宮。父の通夜の翌朝起きた未曾有の大地震。狂騒の中、男と女は出会った。美しく冷徹なヒロインと、彼女の意のままに動く男。女の過去に疑念を持つ刑事。あの『白夜行』の衝撃が蘇る!

あくまでも第3者視点に徹した『白夜行』と違い、主役の男女のうち雅也による視点が多くなっているのが特徴です。ヒロイン・美冬のためとはいえ、犯罪に手を染め意に沿わぬ行動を取らざるを得ない悩み、そして有子との出会いによってささやかな幸せに焦がれるごく平凡な男性らしさが読むもの(特に男性)の共感を得やすいんじゃないでしょうか。
そもそも冒頭で震災に乗じて人を殺めてしまい、その負い目もあって美冬の言うがままに行動するようになるのですが、相手を信頼し愛情で動く男に対して、計算し演技しつくした姿しか表にしない女との対比がはっきりしていきますね。終わり頃になってようやく雅也も利用されていただけだと気づくのですが、ある意味一時的な手段として騙され利用された華屋のフロア長・浜中よりも、雅也には利用価値があっただけに一生を棒に振ったさまが哀れ。


読む前は意識していなかったのですが、実はこれ『白夜行』の続編にあたるわけで、終盤になってようやくその繋がりに気づきました。『白夜行』を読んでいなくても楽しめるとは思いますが、できれば続けて読んだ方がヒロイン美冬のキャラクター観として納得できると思います。逆に『幻夜』だけ読むとそこまでして美冬が突き動かすものが見えにくいでしょうね。
だとしても男を操り登りつめていく美冬の内面は謎めいています。邪魔者を消す際の冷徹さは相変わらずで、今回は過剰なほど美に拘るさまが描かれていました。
本作で彼女は念願叶えたようにも思えるのですが、果たして続編出るのでしょうか?ここまで悪女として栄華の極みに到達したヒロインの行く末を読んでみたい気がしますね。