4期・64冊目 『東京島』

東京島

東京島

内容(「BOOK」データベースより)
32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か?いつか脱出できるのか―。食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない傑作長篇誕生。

始めはヨット旅行中に嵐で難破した中年の夫婦。次に与那国島での過酷なアルバイトからの脱出行で遭難した若者23名。そして不審な船から強制的に降ろされて置いてきぼりにあった中国人約10名。
さまざまな理由で無人島にたどり着いたものの、脱出の可能性は限りなく薄い。そこで島をトーキョー島と名づけ、生きるために原始的な生活を強いられている人々の赤裸々な記録といっていいでしょう。


島民は、多数派である日本人の若者たちと少数派の中国人(通称・ホンコン)。そして圧倒的多数の男性の中で唯一の女性である清子。
そんなバランスのいびつさが数々のトラブルを発生させているといってもいいし、文明から切り離された無人島の中での人間関係とか心情の変化は多種多様に描かれていますね。
多人数視点の中でも特に清子によるものが多いのですが、島での食べ物に馴染めずに衰弱した上に疑惑の死を遂げた夫とは違って、サバイバル向きの本性をあらわにした清子の生き残りにかける執念というか、図太さが目につきます。立場が悪くなっても節操なく状況を利用する。こういう心理描写は著者ならではとは思います。


ただストーリーは時々時系列が戻ったりするぐらいで淡々と島での生活が続くだけにやや退屈でした。終盤において、いくつかイベントが発生してやっと大きな変化が訪れるのが救い。現実離れした内容を読ませる力強さは感じましたが、あまり心が動かされることはありませんでした。