4期・8冊目 『産霊山秘録』

産霊山秘録 (集英社文庫)

産霊山秘録 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
はるか古代から続く「ヒ」一族は、国が動乱期にさしかかると、特殊な能力を使って危機を救ってきたといわれる。その能力とは、御鏡、依玉、伊吹と呼ばれる三種の神器を使ったテレパシー、テレポーテーションであった。物語は戦国の世、織田信長比叡山焼き討ちから始まり、関ヶ原、幕末、太平洋戦争、そして戦後の混乱期へと四百年の時を越える。歴史の襞の中で動く「ヒ」一族を圧倒的スケールで描くSF伝奇ロマンの傑作。

長らく続く戦乱の世に終止符を打つべく勅忍の任によって動き始めた「ヒ」一族が織田信長を盛り立てていくところから始まり、本能寺の変や関が原を経て江戸時代、そして幕末から現代へと「ヒ」の者たちを中心に約400年の歴史をなぞっていくスケールの大きい物語です。
古来、「ヒ」はその力により天皇よりも上位にあったものが、時代を経て天皇を中心としたこの国が揺らぐような危機に登場して、その特殊能力を発揮して活躍するいわゆる忍びのものになっていったという。
まさに歴史の影には「ヒ」有り。「ヒ」の集団が暮らす場は「ヒエ」すなわち比叡山日枝神社、「ヒ」ゆかりの地「ヒの地」が転化した日野。霊力ある地は産霊山とされ、その中でも中心となる地は「芯の山」と呼ばれて願いを叶えることができるという。
いわば歴史トンデモ系っぽさは充分あるのですが、常人には及びもつかない「ヒ」の者と言えども万能ではなく時に権力者に振り回され、「ヒ」一族も里者との混合によってその血は薄まり俗っぽくなっていく。また同じ「ヒ」でも抱く信念によって同士討ちもありえるという設定は面白いと思いました。天海僧正の正体とか坂本竜馬の始祖など歴史上の異説俗説に「ヒ」一族を絡め、「オシラサマ」や義賊・鼠小僧まで盛り込まれていて、見方によっては贅沢なエンターテイメントでもあったりしますね。
ただ「ヒ」の人物たちが使命を果たすべく次々と斃れていく様に一種の無常観を感じたのですが、それは著者の他の作品にも見られる部分かもしれません。