3期・37冊目 『完四郎広目手控』

完四郎広目手控 (集英社文庫)

完四郎広目手控 (集英社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
幕末の江戸。梅屋敷の亀戸で、桜の上野で月見の品川で…。次々と起こる殺人や奇妙な噂。江戸の広告代理店を営む由蔵、素浪人・完四郎、戯作者・仮名垣魯文が繰り広げる素人探偵事件簿。

こういった捕物帳小説を読んだ経験は少ないのですが、捕物の顛末や登場人物だけでなく、時代設定ゆえの風俗描写が重要だと思うのですね。そういう点では各章において史実の事件を絡めたり、季節ごとの催しを取り上げたりする際の細かい描写で時代の雰囲気を伝えるのに成功しているようです。何より挿絵の浮世絵がいいですねぇ。*1
重要な脇役(そして実在の人物)である由蔵、仮名垣魯文はがめつい性格っぽく書かれていますが、なんだかんだ言って金より人情を優先させてしまうのが江戸っ子らしいというか、それぞれの話の結末は勧善懲悪よりも人情的な気持ちいい結末を迎えますね。そこはどことなく世俗離れした完四郎の粋な取り計らいが大きいですね。


史実の人物と言えば多摩の薬売りとして土方歳三が出てくる章が印象的。武士を捨てたつもりの完四郎と武士に拘る歳三との会話が歴史好きとしては面白い。
スト2章は安政の大地震1855年11月11日(安政2年10月2日))が取り上げられていて、瓦版を通した災害時の報道の重要さが強調されているのが異色的です。地震の様子を描いたことが浮世絵師・芳幾*2の後半生に繋がっていくという趣向もあるらしい。
ちなみに予知能力少女・お映が登場して、未来改変の試みまであるのは著者らしさかな。


不満点として、読み進めていくほど会話の平板さが気になること。久しぶりに高橋克彦を読んだのですが、以前も感じたことです。好みの問題なのかもしれないけど。
解説によれば次回作は主人公・完四郎の京都行きに同行するのがなんと坂本竜馬だとか。これは気になりますねぇ。

*1:解説によると、先に絵を選んでストーリーを練ったとか

*2:作中では瓦版の作画担当。のちの東京日日新聞の発起人・落合芳幾。