3期・30〜32冊目 『復活の地』(全3巻)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

内容(「BOOK」データベースより)
王紀440年、惑星統一を果たしたレンカ帝国は今まさに星間列強諸国に対峙しようとしていた。だが帝都トレンカを襲った大災厄は、一瞬にして国家中枢機能を破壊、市民数十万の生命を奪った。植民地総督府の官僚であったセイオは、亡き上司の遺志に従って緊急対策に奔走するが、帝都庁との軋轢、陸軍部隊の不気味な動向のなか、強力な復興組織の必要性を痛感する…。崩壊した国家の再生を描く壮大なる群像劇、全3巻開幕。

いやー、立て続けに3巻読みきった後、その内容に圧倒され様々な想いがよぎり、何を書けばいいかすぐ浮かばなかったですよ。これほどのスケールの大きさながらも同時に身近な命題を感じさせるSFというのは珍しい。
世界設定としては、銀河系に進出した人類が惑星間戦争で地球とかつての文明を失い、各星系にて独自の国家を築き、先進国家*1に限って遺された星間移動の技術を会得している。
舞台となるレンカ帝国は、高皇と呼ばれる君主を戴き、数年前に惑星統一を成し遂げたものの、列強に対して技術力・生産力などが大きく劣る国家。どことなく明治時代の日本を想像させます。そういえば大地震に襲われる首都トレンカも付属の地図を見ると東京に似ている気がしますね。


未曾有の大地震によって国家の中枢が壊滅、数十万の被害者に加えてそのインフラ等の都市機能が麻痺した中で、敬愛する上司の遺志を受け継ぎ復興院総裁として奔走するセイオ・ランカベリー、そして唯一生き残った皇族として若干18歳ながら摂政*2の地位につくスミル親王の若き二人が主人公となります。
どちらも大地震という災害がなければこの惑星の歴史に名を留めなかったかもしれない*3人物ですが、否応無くレンカ復興の中心人物として表舞台に立つわけです。


序盤目につくのが、大都市における地震災害の凄まじさです。それも揺れによる初期の被害よりも、その後の対応の遅れ・誤りによって徐々に広がっていく火災やパニック・暴動の方が酷い。
物語の中、麻痺状態の政府機関に代わってセイオは超人的な働きによって救援対応をこなしていくのですが、効率を第一に考えた強引とも言える判断が、目に見える成果よりも各方面の反発を招く様は何とも皮肉です。非常時には彼のような果断で時には小を切り捨て大を救う非情な対応が必要な時もあります。しかし公務員には平時のセクション意識が残っていて、指揮系統や連絡手段がズタズタの中では力も発揮できない。そこかしかで分断されたインフラの問題があって、避難も救助もままならない。すぐに乗り出してきてくれた外国の援助さえ受け取れる体勢になかったりする。フィクションとは言え、現実に大都市をこのような災害が襲ったら同じようなことが起こり得るのかもしれないと薄ら寒く感じます。


時が経ち、関係者の努力により復興の途半ばのレンカでは、巧妙に邪魔者を排除して強権国家へと変貌させようとするジスカンバ・サイテン首相の動きが目立ち、列強の干渉やかつて滅ぼしたはずの隣国ジャルーダ復興もあってきな臭くなっていきます。そこにまたしても大地震が起こるとの情報が・・・。
後半は追い込まれた立場のスミルとセイオらが、やがて到来する大地震から都市と民を守ろうと手を尽くすのがメインと言えましょうか。
物語的には百数日という期間に数々の要素を盛り込んだ密度の濃い内容ですが、災害の描写や政府機関の動きといったマクロ的視点と被災した市民からの視点が巧くわけられ、どんな展開が描かれていくのか興味が尽きることなく、3巻という長さを感じることは無かったですね。
災害という非常時だけに犯罪など人間の醜い部分も描かれるのですが、基本的に小川一水の作品は主な登場人物を嫌いになるということがほとんどないというのが特徴です。主人公たちにとって敵役であるサイテンにしてもその真意のほどは終盤によって明かされ、何か憎みきれない人物です。


そして物語の大きな特徴とも言えるのが、人物たちの成長および震災を通じて人がどう変わっていくかを描いているところでしょうか。
世間知らずでただの勝気なお嬢様であったスミルはセイオとの衝突*4や民心を知ることで人間的に大きく成長。災害当初は類稀な事務処理能力を発揮したセイオにしても、民衆が何を望んでいるかを知るのが大切だとに気づく。
大衆受けだけの凡庸な政治家に見えたジュロー・シンルージ都令*5が震災経験やセイオの影響を受けてか、次第に優れた調整者として能力を発揮していくのも大きく印象に残りますね。
またネり・ユーダという足に障害を持つ少女が、両親と家を失い傷ついた最悪の立場から、進んで他の人を救おうとする強さに驚きを感じます。
市民たちが被災者という受身の立場から、みずから町を守り、人種や立場を超えて他者を救おうと立ち上がっていく様に感動を覚えました。
架空の世界の話であるものの、まったくもって自然災害*6に対する備えや心がけというものは、いくら上から押し付けようとしても身につくものではなく、個人個人の意識に備わってこそ力を発揮するものだと印象づけられますね。

*1:列強と表記されるそれらの国家は、アメリカがモデルにされたようなダイノン、同じく大英帝国を彷彿させるイングレス、ソ連のようなサランガナン、一風変わった交易国家のバルカホーン

*2:物語の前半では現高皇の死は確認されていないため

*3:セイオに関しては有能な官僚として後年地味に名を遺したかもしれない

*4:敵意がやがて理解、そして愛情に変わるという。

*5:家族思いというところも好印象

*6:この地震の原因については作中で明かされるのですが