36,37冊目 『怒涛のごとく(上・下)』

怒涛のごとく〈上〉 (文春文庫) 怒涛のごとく〈下〉 (文春文庫)
作者: 白石一郎
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2001/12
メディア: 文庫

日本では『国姓爺合戦』で知られる鄭成功の人生を取り上げた作品ということですが、前半は主に父である鄭芝龍の活躍がメイン、後半から父の跡を継いだ成功の話です。


今までの印象で、鄭成功とは、日本・中国大陸・台湾をまたにかける活躍で、海上を支配した希代の英雄みたいなイメージがありました。まぁあくまでもイメージだけで、それほど詳しくは知らなかったわけですが。


本作品を読んで、白石一郎の描く鄭父子を読んで、結構イメージが変わりましたね。
そもそも鄭一族を海上の一大勢力として築き上げたのは鄭芝龍の実績であったが、何事も冷静沈着な彼が、清との交渉では判断を誤って(あくまでも鄭成功の立場からすれば)幽閉→処刑の憂き目にあったこと。
鄭成功個人の性格的には、理想を追い求めることに夢中になり過ぎて、部下の意見に耳を貸さなかったり、本来得意でないはずの陸戦で小さな勝ちに慢心して肝心の南京攻略戦で大敗北を喫するなど短所が目立つ、といったあたりですね。

「不幸や災難は私の棲処だ。心が落ち着き、頭が冴える」

と言った台詞に象徴されるように、逆境をばねに却って前向きになったり、相次ぐ家族の死にもめげずに信念を押し通すあたりは尋常の人物ではないと思いますが、最後にはやはり悲劇の英雄なんだなぁと感じました。だからこそ後世に人気が出たのかもしれませんが。


ちなみに明からの援軍依頼をもし日本が受け入れていたら、という想定で書かれたのが中嶌正英『黄土の夢』です。こちらで書かれる鄭成功の方が私は好きですね。
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