18冊目 『王家の風日』

王家の風日
作者: 宮城谷昌光
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2001/03
メディア: 単行本


読書レビューを書き始めて思ったのですが、本当に面白かった作品について書く時はいつも悩みます。あんまり面白くなかった作品ならば、もっと簡単なんですよ。貶す部分と誉める部分を自分の中で振り分けられるので。
しかし全体的に良かった場合は、どんなに表現しても自分の文章では伝わらない気がして困ります。


そうは言っても、何か書かなければならないのですが、あえて本作品を例えれば、
「魚介類(歴史)が好きだと言ったら、何とスルメイカ(古代中国もの)が出てきた。硬い(知らない)ので滅多に食べない(読まない)のだが、せっかくだから食べて(読んで)みた。最初は良さがわからなかったが、次第に噛(読)めば噛むほど(面白)味が出て(゚д゚)ウマー」って感じでしょうか。


本作品を読む上で、中国史に詳しくなくても問題無しです。っていうか春秋戦国以前の古代中国史に詳しい人って少ないのでは?
作者があとがきで本作を書くきっかけの一つとして「漢字を極めたかったから」と述べていますが、そういう意味では漢字の意味に興味ある人なんかは入りやすいかもしれません。
amazonのレビューに書いてあったのですが、「難解な漢字を駆使する宮城谷昌光の中でも特に難しい漢字が使われている作品」であると。ならば私の様に最初から読んでおけば、次からが苦にならない!?


それから舞台となった「商(殷)」が文字を使い始めた国家であり、後の「周」以降の国家と違って、人民ではなく神の為に行う祭礼色が強い政治(まさに「まつりごと」)を行っていた、などと新鮮な事例がふんだんにありました。
更に以後の中国史にて伝説的に語られる人物が、生身で登場し、生き生きと活躍しているのも意外な楽しみとして感じられます。例)太公望(呂望)、妲己、 伯夷と叔斉、悪来などなど・・・
暴君の象徴である紂王(受王)についても、ほとんど名前でしか知らなかったのですが、作品の中では王・側近・民衆・他国君主と色んな立場から詳しく書かれていて、だいぶ印象が変わりました。

一つ一つ挙げていたら切りが無いのですが、特に最後のクライマックス「牧野の戦い」では導入から戦後に至るまでページをめくるのがもどかしいくらいでした。
それにしても「維新」の元が殷周革命であったとは初耳でしたねぇ。「平成維新」と言う人は本来の「維新」と「明治維新」の違いを知ったらどうするんでしょうか・・・。
では最後に印象に残った部分を引用します。中国史ではたくさんの国家が興りましたが、それ以上に失敗に終わった事例が多いと言えます。天下を獲る為の戦いを始めた時の周王についての文章です。

「かれにとって、崇はすこしも恐ろしい敵でない。崇を伐つという行為を世間がどう評価するか、そうした万人の目、天の声の方が恐ろしい。天下をとるということは、見えない目聴こえない声を、意識しつつ行動しなければならない。それができない者はおそらく弑逆者でおわるだけである。」