8期・68冊目 『ジャクソンビルの闇』

初めて目にしたフランス女流作家によるホラー作品なのですが、「キングやクーンツのファンにはお薦め」というレビューをきっかけに読んでみました。


砂漠に囲まれたアメリカ南部の田舎町ジャクソンビル。
若い女性が殺されて死体が部分的に切り取られるという事件が物語の幕開けとなります。
ついで不倫中の男女が揃って体中を切り刻まれ、これまた見るに堪えないむごたらしい死にざまで発見され、今度はパトロール中の警察官がパトカーの中で体を横真っ二つにされていた。
しかも不可解なことに警察官は体を切断された後におかしな無線を発していたという。
平和な町で起こった連続殺人の犯行内容は常識を超えており、手に余った保安官はFBIの応援を呼ぶのですが…。
一方で検死を担当する法医学者・ルイスは幻覚や体調不良に悩まされており、大の苦手であるゴキブリ群に襲われて失神するという事態に至って、高名な医者に検査してもらうのですが、そこで自分自身がデータ上は死んだことになっているという検査結果を受け取る。
相次ぐ凄惨な殺人事件にゴキブリの大発生、それに死んだはずの者が生き返っている?
保安官やFBI捜査官たちは事態を収拾するどころか、相次ぐ不自然な現象に振り回されるのみ。
そして独立記念日が近づき町がお祭り騒ぎに浮かれていく陰で闇が蝕んでいき、当日のパレードの場にて一気に死者たちが人々を襲い出すという展開になります。


いわゆるゾンビものパニックホラーですな。
元々は術師レオナード(主人公ジェレミーの祖父)によって第二の生を与えられ、抑えられていた死者たちがマーティン一家の暴走をきっかけにタガが外れたように暴れまわるようになったというのが背景として明かされます。
そして、ゾンビものの共通点としてここでも強烈な飢えに苦しんだ挙句に生者を襲って生きたまま喰ってしまう。
また、生ける屍となった肉体にはゴキブリやら蛆やらミミズが這いずり回る。
暴れるゾンビたちの黒幕とも言うべきマーティン一家が登場するシーンでは何とも言い難い悪臭が漂う。
もうその描写は気持ち悪さ満開。
慣れていない人は途中で気分悪くなるかもしれないほど。
内容としてはかなりエグイです。
一方で生き返った死者の精神度合はさまざまで、中には一度死んだとは気づかずルイスのように生者として振る舞っている人物がいたりして、ただのゾンビパニックとは違う悲哀を感じさせます。
町に流れてきた美女フランキーと出会ったことにより、生まれ変わったように溌剌としてきたダグが彼女がゾンビと分かっても愛し、最後は彼女を抱いたまま燃え盛る街に戻るシーンは何とも言えないほど美しく悲しいシーンでした。


どころで首を切ろうが何しようが復活するこのゾンビたちの弱点は炎。それに少しだけど十字架も効く描写が出てきたのがらしいというか。
ただその戦いぶりが滅茶苦茶で効果とか位置関係がわかりづらかったです。
教会の十字架を鈍器代わりに殴打するのはまだしも、雨の中で銃で撃っていきなり燃え上がったのは不可解。
終盤に数少ない生き残りであるジェレミーやFBI捜査官たちがガソリンスタンドに立て篭もって迫るゾンビ集団と対峙するシーンがクライマックスではあるのですが、引火性の強いガソリンのホースを振り回しながら火をつけてたりしたら、普通は人間たちもろともスタンドごと大炎上(もしくは爆発)するよなぁとツッコミたくなったものです。

悩ましい友達の問題

今のクラスになってから娘に非常に仲良い友達(Aちゃん)ができたと書いたのが9月のこと。
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20130928/1380362577
家で聞く話はもとより、運動会や家で遊んでいる様子など、自分が見ている範囲ではとても仲良し。
もうラブラブと言っていいくらいで完全に二人の世界になってました。
学校でも他の子が交わることがあっても、二人で行動することが多かったらしい。


それが雲行きが怪しくなったのが11月後半になってから。
前提として、クラスに意地悪な女子(B子)がいる。
悪口はもとよりちょっとした暴力や借りパク被害も受けていたので、娘は極力関わらないようにしているのです。
このB子がAちゃんと行動したがるようになったのが直接のきっかけらしい。
これが普段付き合いのある他の友達が混ざるのだったら全然問題無かったのです。
しかし娘にとってB子はいわば天敵。
そしてAちゃんは勉強もできてしっかりものの委員長タイプ(言いかえれば八方美人とも)。
なのでB子のことをむげにできない。
そうすると面白くないのは娘の方。
B子がAちゃんに絡んでくると娘はムスっとして遠ざかる。
Aちゃんにしてみれば娘に嫌われた?と困ってしまい、他にも悩んでいたことがあって親に泣いて相談。
母親同士も仲良かったので、すぐさまこちらの母親にメールというのが簡単な流れでした。


どちらも言い分があるわけですが、感情の起伏の激しい面がある娘に、意外と情緒的な弱さを持っていたAちゃんが必要以上に振り回されたという図でしょうか。
あんだけ仲良くしていたのだから、ちょっと邪魔が入ったくらいでダメになるわけないのに思うのですが、ちょっとしたことで動揺してしまうのがこの年頃の女子らしい。
妻の見立てによると「蜜月期間を過ぎて、互いに嫌な部分が見え始めたのもあるんじゃない?倦怠期みたいなもの」ってことで言いえて妙だと思いました。
それを乗り越えて(相手の性格を受け入れて)こそ、本当の友達になれるのでしょうが。
母親同士で話した限りではそれほど深刻でもなく当人たちの考えすぎということで説得し、今まで通り仲良くしていくということで済みました。お互いの気持ちも母親経由でオブラートに包んで伝わったようですし。
その後何度も遊んだりして、今では仲良く過ごしてはいるようです。
もやもや抱えているなら、時には喧嘩してでも本音ぶつけてみればと思うのは男子的(というか少年漫画か)な考えで、女子の友達関係はなかなか難しいようです。

8期・67冊目 『スケルトンクルー1 骸骨乗務員』

スケルトン・クルー〈1〉骸骨乗組員 (扶桑社ミステリー)

スケルトン・クルー〈1〉骸骨乗組員 (扶桑社ミステリー)

内容(「BOOK」データベースより)
7月19日のその夜、メイン州西部の全域が、未曽有のはげしい雷雨にみまわれた。嵐に脅える住民たち。だが、その後に襲ってきた“霧”こそが、真の恐怖だったのだ。その霧は街をおおいつくし、人々を閉じこめてしまう。奇怪な霧に閉じこめられた人々の動揺と冒険を描く中編『霧』、シカゴのやくざたちの結婚式で演奏したジャズ・バンドの災難『ウェディング・ギグ』、3百年前の鏡台の鏡の片隅に映る影『死神』など、恐怖小説の王者が贈る短編傑作集『スケルトン・クルー』からの第1弾。

スティーヴン・キングのホラー短編集『スケルトンクルー』シリーズの第一弾であり、5編の短編と1編の中編が収められています。
収録作品は以下の通り。
「握手しない男」
「ウエディング・ギグ」
カインの末裔
「死神」
「ほら、虎がいる」
「霧」
後からジンワリくる短編(ショートショートと言ってもいいくらい)もなかなかの出来で、個人的には「ウエディング・ギグ」がいろいろ「その後」の想像をかき立てるものがあって面白かったです。
でもやっぱりピカイチなのは最後の中編である「霧」でしょう。


主人公デヴィッド・ドレイトンはメイン州の避暑地の湖のほとりにて妻・ステファンと息子ビリーとともに住んでいる。
激しい嵐が周辺を襲った翌朝、自宅近辺の破壊の爪痕を見て回った際に、湖上に今まで見たことが無い濃密な白い霧が出現しているのを目撃して不審な思いを抱く。
そして妻を残して息子とスーパーへ買い出しに行くのですが、混雑した店内でレジ待ちしている最中にあの不気味な白い霧が辺りを覆い始め、デヴィッドらは出るに出られず店内に閉じ込められてしまうのです。


霧の中から巨大触手や異形の怪物が出現して人間を襲いくる。
それらとの戦いもすさまじいですが、何よりも閉じ込められた人間たちが見せる修羅場にはさすがに引き込まれるものがありますね。
過去のトラブルもあって地元民を敵視している隣人のノートンは現実を見ることを拒否して我が道を行く。
以前から迷信の塊であった老婆カーモディは古臭い終末論をかざして益々その狂信者ぶりに拍車がかかるが、絶望的な状況でそれに縋りつく人が徐々に増えていく。
狂信者たちが生贄、それも息子のビリーを欲していると知ったデヴィッドは信頼できる仲間と共に食料を確保して車で脱出しようと図るのですが・・・。


ゾンビ映画で出てくるようにスーパーマーケットというのは立て篭もるにはちょうど良い場所ではあります。
ただ、偶然そこに居合わせただけの人々がすんなり協力しあえるかと言えばそんなことなく。
得てして対立が起こったり、暴走して危機を招いたりするもの。
災害時には人間の本音が垣間見えると言いますが、まさに極限状況におかれた人間模様が赤裸々に描かれていますね。
霧や怪物などの背景の説明は無くて唐突に始まってますが、それが気にならないほど読ませる内容でした。

忘年会&新年会なんて・・・

忘年会(&新年会)の時期が近づいてきた。
公の酒付き合いみたいなのがあまり好きではない自分にとってはなるべく遠慮したいものだが、付き合い上仕方なく出たりしている。
出席が義務化している日本の忘年会&新年会という習慣なんて無くなればいいという記事をどこかで読んだことがあるが、本当にその通りだと思う。

高い金払ってその割には大した料理ではなかったり(コース料理は当たり外れある)、普段あまり付き合いの無い人と気を遣って話し、しかも普通に翌日が平日の日に設定されていると翌朝がつらい。
予定時間の半分で料理を平らげてしまい、手持無沙汰で会話も弾まず、ちびちび飲んで過ごしたこともあった(笑)

もっとも飲み会自体が嫌いなわけではなく、親しい友人と飲む分には全然別。
楽しい飲み会だとあっという間に時間が経つしね。

幸いなことに今の会社に移ってからはドライなもので、飲み会自体は少ない。
だけど一年に一度忘年会だけはやるらしくて連絡が来たのだが、何か理由つけて断ってしまおうかどうしようか考え中。

8期・66冊目 『時空の旭日旗11 歴史のスパイラル』

内容(「BOOK」データベースより)
1944年9月。西の最前線となった南アンダマン島をめぐり、「大和」を旗艦とする南遣艦隊と、連合軍の英仏合同艦隊がベンガル湾内で激突。「A情報」により誕生した早期警戒管制機「深山三四型」などの活躍により日本軍が勝利、英仏軍をセイロンまで退けて、さらに西進を目指した。しかし、連合軍はインド洋進出を予期しており、B‐42など新たな兵器を投入する『コイン・トス作戦』がすでに発動されていた!戦場をインド洋へと移した待望のシリーズ第11弾!

A(タイムスリップしたあずみ丸)情報により格段の鉄壁を誇る日本の防衛圏内に穴を開けんとする米英仏豪軍*1との応酬が続いていますが、前巻から舞台となったのがインド洋の玄関口とも言えるアンダマン諸島
上陸を許したものの、戦艦大和や空母信濃など強力な戦力を持つ南遣艦隊の派遣によって速やかな防衛と敵撃破を図る日本。
それに対して連合軍は英仏艦隊およびB29の代替機から派生した高速爆撃機B‐42を繰り出しての航空戦が前半の見どころ。
そして後半はうって変わってマレー半島シンガポールへの空爆を始めた連合軍に対して、日本軍が一大反撃を行う展開となります。
結局、局地的には日本が優勢に進めても、豊富な物量を誇る連合軍にとってはさほど打撃とはなってなく、先の見えない戦いが続いている印象がありますねぇ。


技術的な説明が多くなるのは仕方ないにしても、個々の描写はテンポ良く進むので、さほどストレスは感じません。
ただ、前巻でも書きましたが、10巻を超えても一向に戦争の落としどころが見えないのが気になるところ。
状況的には豊富な戦力を誇る連合軍に対して、あずみ丸の戦史記録やPCを駆使した通信傍受、未来の軍事技術・知識を応用して効果的な戦力投入によって対抗できているのはわかるのですが、一旦破綻したらズルズルいきそう。
史実とは国力が違うとはいえ、限界に近づいている気配も見えるので、終戦に向けての展開がそろそろあっても良さそうだと思うのですが。

*1:兵器はアメリカ製が多いけれども

8期・65冊目 『八八艦隊海戦譜 攻防編2』

八八艦隊海戦譜 - 攻防篇2 (C・NOVELS)

八八艦隊海戦譜 - 攻防篇2 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)
日本海軍は豪州における米軍基地の無力化を図り、米豪分断作戦を実施。ブーゲンビルの無血占領に成功し、航空基地建設に着手していた。だが、突如としてB17が大挙襲来。零戦が二〇ミリ弾で反撃するも、鉄壁の防弾装甲の前に阻まれ、戦線は膠着する。連合艦隊司令部は窮地に陥った南東方面艦隊を救出すべく、八八艦隊の投入を決定!立ちはだかる巡洋艦ハートフォード」、さらに新鋭戦艦「ミシガン」。戦艦同士が死闘を繰り広げる中、戦局打開の望みを託された決戦兵器・高速雷撃艇「瀑龍」が、混戦のソロモン海に突入する!!

前巻では通商破壊を目論む連合軍に対して守備に徹していた日本軍ですが、なんとか守り切って蘭印が安定すると、今度は攻勢論が浮上してきます。
バトルオブブリテン敗北と米軍機(B-17)の登場によって今大戦初めてドイツが守勢に立たされたという欧州の情勢も描かれて、米豪分断作戦実施の運びとなります。
ラバウルを足掛かりにソロモン諸島など米豪間に横たわる島々を占領することによってオーストラリアの孤立と連合軍からの脱落を図るという。
仮に占領できたとしても補給の問題があるし、万が一維持できたとしてもそう簡単に米豪二国間を分断できるものかと素人でも思いつくところですがね。
それに史実でもミッドウェーの4空母喪失よりも、ガダルカナルに始まるソロモン攻防の消耗戦によって日本海軍は急速に弱体化していったわけですから、世界観は別でもおそらくシリーズの転換点となるであろう戦いが描かれていくのでしょう。


意外と堅実に進めた日本軍の作戦ですが、ラバウルに続いてブーゲンビルの無血占領に成功するもB17の来襲によって基地化が遅れ*1、その高性能ゆえに零戦だけでは迎撃しきれない。
⇒戦艦の夜間砲撃と山口多聞率いる空母部隊の空襲(ただし戦闘機のみ)によって一時的にガダルカナルにある米軍基地が無力化。
⇒お返しとばかりに米軍が新鋭艦を繰り出しブーゲンビル夜間砲撃を企図。
そこで連続して海戦が発生するというのが今回の大まかな流れとなっていて、徐々にクライマックスに向かう展開にはやはり引きこまれます。
結論から言えば、今回ばかりは主役である八八艦隊の各艦も健闘むなしく立て続けに喪失してしまうのです。まぁある程度は予想はついていましたが。
それも航空機の対艦攻撃能力の効果が実証されていない本作の世界で、珍しく戦艦以外との戦闘で沈められるのですが、混乱した戦場で傷ついた艦が魚雷を喰らうのは仕方ない。
撤退中の艦が潜水艦の待ち伏せに遭うのも実際あり得る。
以前のシリーズにも度々ありましたが、またしても軽巡が正面切って戦艦と戦い圧倒してしまうのはどうかと。*2
著者が大艦巨砲主義の一方で小口径多砲塔による速射が好きなのはわかるけど、毎シリーズこれが出てくるのはちょっとね…。
一方、予想通り登場した瀑龍は夜間の島影での待ち伏せという限定した戦場で効果を発揮したわけですが、戦争後半には『八八艦隊物語』における「フィリピンの七面鳥撃ち」のような悲劇を再度やりそうな気がしてならないです。


こうして日本側の損失とアメリカ側の建造ラッシュ。次巻で戦力の均衡が破れて戦局が一気に傾くのか、あるいはその流れに逆らうべくポスト八八艦隊である大和級が登場するのでしょうか。
本編5巻で完結した『八八艦隊物語』と違って長くなりそうなので、もう一巻くらい均衡状態が続くような気がします。

*1:人力に頼らざるを得ない設営能力の低さという事情はあるが

*2:前巻の奥入瀬軽巡のように戦艦のサポートとして役立つならわかる

8期・64冊目 『氷海のウラヌス』

氷海のウラヌス (祥伝社文庫)

氷海のウラヌス (祥伝社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
昭和十六年九月二十五日、一隻の最新鋭艦が密かに横須賀を出港した。その名は「ウラヌス」、対米戦必勝をもくろむ日本海軍の特使とヒトラーへの“贈り物”を乗せていた。目指すはドイツ占領下のノルウェー。しかし、行く手には暴風雪吹き荒れる北極海、そして、圧倒的な敵の海空軍が待ち受けている。列強の策謀渦巻く非情の海を、国運を賭して独り行くウラヌスの運命は?太平洋戦争勃発の陰に隠された誇り高き男たちの物語―比類なき冒険サスペンスの傑作。

昭和十六年、対米開戦を推進していた軍の強硬派の不安要素は開戦後にドイツが参戦してくれるかということ。
当時結ばれていた三国同盟では第三国から「攻撃された」のではなく、「攻撃した」のでは参戦義務の規定は無かったため。
そこで日本海軍の切り札であり、当時の水雷戦の常識を打ち破る秘密兵器・九三式魚雷*1ヒトラーに贈呈することでその決意を促そうという提案がなされたわけです。
日本側の特使として選ばれたのが、かつて海軍主流派のエリートでありながら、三国同盟に反対して閑職に回された堀場大佐。そして水雷専門の士官として望月大尉。
とはいえ、交戦中のドイツと中立国の日本という立場から表だって兵器を渡すわけにいかず、ドイツの仮装巡洋艦(元は砕氷船)・ウラヌスによって隠密裏に運ぼうという作戦計画です。
ウラヌスの艦長は優秀ながらも日本人を黄色い猿と蔑視している人種差別者のハイケン大佐。
行程のほとんどを敵国が支配する北極海を突っ切って、ウラヌスは無事ドイツに届けられるのか?


軍事同盟を結びながら日独二国間はユーラシア大陸をもって遠く隔てている上にほとんど連合国側の支配下にあります。
それゆえ連絡には非常に困難が伴うのですが、それを題材とした軍事サスペンスとしては零戦空輸をテーマにした佐々木譲『ベルリン飛行指令』を思い起こしますね。
本作は仮装巡洋艦による北極海突破だけに戦闘シーンは少ないながらも過酷な自然環境との戦いも見もの。
また困難な作戦を前にどうなることかと思われたハイケンー堀場・望月との冷ややかな関係も実戦を通じて徐々に変化していくのも面白い。
主要人物の造形も優れている上に、国家の違いや軍人としての建前を超えて、戦友としての絆や人としての誇りを全うする男たちの生き様が熱い。
作戦と同時並行して日本・ドイツの思惑・外交の裏事情の描写も相まって、ウラヌスの運命が気になってしまう。
特に戦史に興味なくても楽しめるサスペンス・アクション小説ではないでしょうか。


気になったのが英海軍との戦闘で、10,000mの距離で発射した魚雷が三本中二本も命中したのが奇跡的すぎる点ですね。お互い動いている海戦で長距離で魚雷を命中させるのは非常に難しいと言われているので。*2
まぁクライマックスで当たらないんじゃ話にならないからしょうがないですけどね。

*1:速度・航続距離・威力が段違いな上、航跡を残さないため非常に発見しづらい

*2:史実でもスラバヤ沖海戦では9000〜18000mの距離での魚雷発射総数188本のうち命中したのはわずか4本だったという記録がある