『ミスト』 / 『時をかける少女』

ミスト Blu-ray

ミスト Blu-ray

  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: Blu-ray

『ミスト』
原作はスティーヴン・キング『スケルトンクルー1 骸骨乗務員』に収録の『霧』。
激しい雷雨を伴う大雨が明けた朝、主人公デヴィッド・ドレイトン一家の住む湖に面した自宅では2階のアトリエの窓を破られていた他、隣家の枯れ木が倒れてボート小屋が押しつぶされるなど、散々な状況となっていました。
とりあえず食料等を補給するためにデヴィッドは息子のビリー、それに車に被害のあった隣のノートンを乗せてスーパーに買い出しに行きます。
往路では軍の車と何台もすれ違います。
このあたりでは災害救助のために出動したのかと思うところですが…。
デヴィッドがスーパーで顔馴染みと挨拶を交わしている間に何度もサイレンが鳴り、休暇に来ていた軍人がMPによって招集をかけられていたその時、外から鼻血を出しながら飛び込んできた男が言ったのです。
「霧の中に何かがいる」と。
彼が言うには霧の中から出てきた何かに連れが捕まり、自身も危ういところを逃げてきたのだと。
霧が駐車場から流れてきて、急いで入り口を閉めたところで地震のような大きな揺れが店内を襲ってきました。
揺れのせいか、停電してしまったために倉庫にある発電機の様子を見に行ったデヴィッドですが、何かがシャッターを押していることに気づきます。
そこで副店長オリーを始めとする5人で再び倉庫を調べに行きます。店外の排気口の様子を見ると言ってデヴィッドの制止も聞かずにシャッターを開けたその時、謎の触手が若い店員に巻き付き、連れ去っていってしまう。
やはり霧の中には何かがいる。
始めは信じようとしなかった店長も斧で切り落とされた触手を見て顔色を変え、店内に残っている客たちに説明をしたのですが、ノートンを始めとして頭から信じようとしない者たちは救助を呼びに行くと外へ出て行ってしまうのでした。

1m先も見えないような濃密な霧に覆われただけでも災害と言えましょう。さらに霧の中から襲ってくる異形の魔物。見たことのない大きさの羽虫や蜘蛛、怪鳥、人間の背丈を超える名状しがたい化け物、それに謎の巨大触手。恐ろしい見た目ばかりでなく、それらは好んで人間を襲い、触れただけで焼け爛れて死に至る厄介な毒を持っているのでした。
食料が豊富なスーパーに立て籠るのはパニックものとしての定番*1ですが、それも中にいる人々が協力しあえればまだしも、異常事態に見舞われた人間はそれぞれ勝手な行動を取りがちです。
しかも狂信的な原始キリスト教信者のミセス・カーモディが終末論をかざして煽り、化け物による死者が出たことによる人々の動揺に付け込んで支持者を増やしていくのです。
カーモディの信者が大多数になった段階で、デヴィッドを始めとする数人(副店長のオリー、ビリーを世話していた新任教師のアマンダ、最初に外から飛び込んできたダンなど)は店からの脱出を考え始めるのですが、カーモディは自分たちが助かるためには化け物に生贄を差し出すべきだと言い出すのでした。

中編程度だった原作ですが、映画では霧および怪物の理由をはじめとして色々と肉付けされていますね。
まず触手や化け物が不気味。暗い中であんなのに襲われたら堪りません。
もっとも、本作ではパニックにおける人々の行動こそが見どころでしょう。
映画として見ているからこそツッコミたくなるのですが、あえて死にに行くような、被害を増やすような愚かな行動を取る者が目につきました。
それにいくら異常事態とはいえ、狂信者の扇動に煽られていく過程が怖いです。
あれも宗教的な土壌の違いもあるんでしょうかね。
「あのオバハン、早く黙らせろよっ!」と何度思ったことか。
だからこそ、最後まで冷静だった老教師アイリーンの存在が光っていましたね。
ドラッグストアでは落ち着いてライターとスプレーで怪物退治していましたし、演説するカーモディに石ならぬ缶詰を投げつけた場面では胸がすっとする思いでした(笑)

気になったのは基地司令もしくは幹部クラスならともかく、映画に登場するMPや二等兵が極秘作戦の概要を喋っていた点です。
作中ではあくまでも噂だと言っていましたが、二等兵の同僚が責任を感じて自殺していたのは唐突すぎて納得いかなかったかな。*2

原作小説では最後ははっきりと描かれていなかったと記憶しているのですが、映画では衝撃的な結末が待っています。
ここでネタバレするのは避けますが、デヴィッドが絶叫するのもやむなしと言えるでしょう。
見終わった後に思ったのは、多くの死と崩壊した街の風景を見てきたとはいえ、最後まで理性を失わずに行動してきた彼らだからこそ、もう少し落ち着いて様子を見ることはできなかったのかなと。




時をかける少女 [Blu-ray]

時をかける少女 [Blu-ray]

  • 発売日: 2008/07/25
  • メディア: Blu-ray

時をかける少女
筒井康隆による原作小説*3、それに原田知世主演による映画も見ていますが、今ではあまり憶えていません。
調べてみると雑誌掲載は1965年。『タイムトラベラー』という名で映像化されたのさえ1972年とずいぶん前ですね。
その後、何度も繰り返し映像化されている、タイムリープライトノベルのはしりともいっていい作品です。
2006年、細田守監督によってアニメ映画となったことは知っていたのですが、当時は娘も小さくて、自分が見たいアニメを見られる時間的余裕はなかったですね。
最近、TSUTAYAでタイトルを見て借りてみました。

原作の出来事から約20年後を舞台にしているということで、原作主人公・芳山和子の姪である紺野真琴が本作の主人公になっています。
彼女たちが携帯電話(二つ折りのガラケー)を使っているので、原作小説版というより映画版(1983年)の20年後ならば違和感ないですね。
ヒロイン・紺野真琴は同じクラスの男子2人と友達付き合いしていて、ある日理科準備室に入った時に突然のアクシデントでタイムリープ能力に目覚めるという設定は同じ。
だけど真琴は和子とはおおいに違っていて、良くいえば快活であっさりとした性格。悪く言えばおっちょこちょいでお調子者。
調理実習のトラブルを回避したのはまだしも、テストで良い点を修めたり、妹に取られてしまう前にプリンを食べたり、カラオケで何時間も歌ったり、好きなおかずを食べるために前の日に戻ったり。
自分が時を戻れるようになったと知った途端、欲望に忠実に行動します。
まぁ、相談された和子が言うように、あくまでも可愛い範囲なのですが。
何よりも特徴的なのがタイムリープするためには勢いをつけてジャンプすること。
そのために川やプールにダイブして、遡ると必ずゴロゴロと回転して何かにぶつかる。ずいぶんと激しい子です(笑)
そのくせに恋愛には奥手で、自分への告白を無かったことにするためにタイムリープする。
一方で後輩の想いを叶えてあげようと奮闘する人の好さも見られて、もどかしいけど嫌いになれません。
喜怒哀楽がはっきりしていて、いざとなると無謀ともいえる行動を取るあたり、原作が書かれた昭和とは違う、平成のヒロイン像というのでしょうか。
好きな人を待ち続けた和子と違い、自分から走っていこうとする真琴という対比が物語っています。
それはそれとして、2000年代ながら校舎内の描写が妙に懐かしく感じられました。
高校2年の夏というのは本当に貴重な瞬間だったんだなぁと思わされました。
友情と愛情の狭間で揺れる心情もあいまって、青春SFという意味では原作を正しく踏襲していましたね。

*1:若いカップルが早いうちに被害者になるのもホラー映画の定番か。

*2:同じ若手でも士官学校卒業したばかりで司令部付きとなった少尉という設定なら納得がいったのに。

*3:私が読んだのは1976年の角川文庫版(購入は1994年)。