山田宗樹 『人類滅亡小説』

人類滅亡小説

人類滅亡小説

内容(「BOOK」データベースより)

空に浮かぶ雲の中に古代から存在してきた微生物。それらが変異し大量発生、周囲の酸素を吸収するようになった。その雲が自重で地面に落下。その現象が起きた地点は急激な酸欠状態になり、ほとんどの生物が死んでいくという惨状が次次と発生。だがその予測不能な事態に、人間は有効な手立てを何も見いだせないでいた。終末感が漂う時代、人々はいかに生きるのかを選び始める。普段どおりの生活を続ける者、新興宗教に救いを求める者、微かな生存に望みを託す者、いっそ鮮やかな死を望む者、そして―。

ビルの屋上から飛び降りて自殺を図ろうとした女子高生が空を見上げた時、そこには不気味な赤い雲が浮かんでいて、将来的に人類は滅亡するのだと悟ります。
その赤い雲には遥か昔から特殊な微生物が含まれていたのですが、突然変異して高度を下げてきたもの。なんらかのきっかけで地表に落下すると周囲の酸素を急激に吸い込み、あらゆる生き物は酸欠状態になって死に至るという恐ろしい現象が起こるようになったのでした。
時と共に赤い雲は増えていくようになり、人々は落下警報が鳴ったら急いで密閉された室内に避難せざるを得なくなります。
赤い雲の分析も進められましたが、被害を防ぐ有効な手立ては見いだせず、対処はどうしても受け身とならざるをえません。
赤い雲が広がって人類が緩やかに衰退へと向かう中、対応策として考え出したのは地表の酸素が激減しても生きていける人工都市(シールドポリス)構想。
しかし、十万人程度を収容できるシールドポリスをいくら建設しても、中に入れる人はごく一部。*1
どうせ生き残れないのならば、鮮やかな滅亡を迎えることこそが美しいという思想(グレートエンディング)が流行りだします。
それは政治にも波及していき、劇的な政権交代が起こった日本ではシールドポリス計画が停滞を余儀なくされてしまうのでした。


最初に登場する自殺を試みた女子高生とその妹。
この二人の孫の世代まで語られる、人類が滅亡に至るまでの道程を描いた大作です。
赤い雲に関してキーパーソンも登場してずっと研究が続けられるのですが、起伏に乏しい上にどんどん時が過ぎていく中、登場人物も多くてついていくのが大変に思えました。
劇的な展開があって滅亡から救われるというわけでもなく、いくつもの大きな事件を展開しながら、滅亡への流れを紡いでいく感じですね。
前半は姉妹を中心とした人間ドラマ、後半は崩壊へと向かうSFパニック的な要素が強いと言っていいでしょうか。
中盤くらいまでは登場人物の希望や熱意を感じることはあっても、終わりが近づいていくほどに悲劇的な気分が増していくのは免れません。
そういう意味ではタイトルに偽りはありませんでした。
いつかは訪れる人類の終末、それが唐突に訪れると知ってから、営々と積み上げてきた社会の営みが崩壊していく様はなんとも言えない虚しさを感じさせます。
特にそれが10代の少年少女であったり、未来がないのに子を作って良いのか悩む男女など、残りわずか十数年、未来が絶望的な時代に生きる人々の足掻きぶりは強く印象に残りましたね。
結末で文明間の繋がりが描かれたのも伏線の回収だけでなく、想像の余地もロマンもあって良かったと思います。

*1:およそ千人に一人