9期・54,55冊目 『降伏の儀式(上・下)』

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
1990年代、とある天文台が観測した謎の光点。それは地球に向けて接近する、一隻の巨大宇宙船だった。かくして人類は、初の地球外生命到来の瞬間を待ち構えるが…奇妙にも、異星船は地球からのメッセージになんの返答もよこさない。彼らは一体なにを目論んでいるのか?アメリカSF界きってのベストセラー・コンビが放つ、最新地球侵略SF大作!

土星付近で発見された異星人の巨大宇宙船が一路地球を目指していると判明して沸き立つ人類。
軍の動員をかけたソ連に対抗措置を取る一方で、座して待つより使者を派遣しようと、アメリカ政府では宇宙開発関連に詳しいドーソン議員を大使とする一団が軌道上の宇宙ステーションへ赴きます(といってもソ連しかステーションを持たないので間借りするわけですが)。
歓迎と警戒が入り混じる中で様々なメッセージが宇宙船に対して送られるのですが、ことごとく無視されていて、その真意が測れぬ中でのファーストコンタクト。
それは有無を言わさない一方的な攻撃でした。
ソ連アメリカは何とか反撃はするものの、異星人は空からの正確無比な攻撃(レーザー兵器や隕石落とし)によって圧倒。
ついに異星人は分岐船*1より歩兵を降下させてアメリカ国内に橋頭堡を築くことを許してしまいます。
捕虜として連行されたソ連のクルーやドーソン議員らは、象に似た巨躯を持つ異星人の言語を習得させられ、コミュニケーションを取る内に彼らは地球に植民する意図をもってやってきたことを知ります。
果たして人類は彼らに降伏せざるを得ないのか?


ひとことで言えば地球侵略を目論む異星人対人類(メインはアメリカ)の戦い。
接触→奇襲による形勢不利→ささやかな抵抗→切り札による反撃→激闘の末の勝利。
そんな流れになるのがいかにもアメリカ人好みなんでしょうな。
それにしても長かった…。
前半は異星人含め多くの登場人物が入れ代わり立ち代わり出てきて人物名が追いつきません。*2
読み終えてみれば、いかにも核と宇宙開発を主とする冷戦時代を背景とした様々な要素がじっくり描かれていたのは理解できます。
核の冬を前提としてシェルターを準備していたアメリカのサバイバリストたち。
ソ連内部での権力闘争。
対異星人攻撃のために米ソ協調の裏での政治的取引。
異星人側も宇宙植民に関しての内部対立があったり...etc
でも終盤に怒涛の展開に入ると、そのあたりがものの見事にすっ飛ばされていた気がしますね。


異星人たち(自称:旅する群れ)は強力な武器や恒星間航行を得ているがそれらは自前の技術による成果ではなく、滅んでしまった先進文明の知識によるもの。
それもあってか科学技術含めて文明の差が隔絶しているわけでもなく、自らの流儀を押し付けようとして失敗するのもなかなか良い設定でしたね。
彼らが人類と接して、種族としての規範があまりにも違うことに戸惑うあたりは面白かったです。
タイトルでもある「降伏の儀式」(仰向けになった相手の胸を足で踏むこと)を行ったら絶対的な服従を誓うのが彼らのルールであるので、降伏させたはずの人間が抵抗することが理解できなかったりする。
それゆえ人間の群れ全体が反逆したとみなして平然と皆殺しする悲劇が発生してしまう。
また群生生物でもあるため、降伏さえすれば異星人同士でも仲間として受け入れることさえ可能だったりするし、発情期があって家族的な結びつきを重視する。
たまたまアメリカの住宅から押収したポルノビデオを子ども含む捕虜全員に見せて「これはどういうことだ?」と問い、むしろ人間の側が喧々諤々の議論、というか罵倒合戦に発展してしまうあたりはブラックユーモアを感じました。
異星人による侵攻が進み、圧倒的な不利な状況で人類(というかアメリカ)の切り札である戦闘艦ミカエルの発想から逆襲まではいかにも冷戦期の非常手段なハチャメチャな感じはありましたが、疾走感と緊迫感が溢れていて楽しめました。

*1:母船に搭載された小型飛行機

*2:そういや後半に入るとソ連の人物は捕虜を除き、さっぱり登場しなくなった