9期・56冊目 『雀蜂』

雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!

小説家の安斎は前夜に妻とワインを飲んだ後の記憶が途切れており、気がついたら山荘の寝室に取り残されていました。
そして部屋には不吉な羽音が。
アレルギー体質により過去に強いアナフラキシー症状が出たため、もう一度刺されると命の保証はないと医者に念を押されていた安斎にとって、雀蜂は天敵と言ってもいい存在。
それがなぜ11月下旬のこの時期に現れたのか?*1
一緒にいたはずの妻は姿を消し、車のキーは無く、PCや電話などの連絡手段は(故意に部品が外されていて)絶たれて吹雪に閉ざされた山荘に一人。
妻の夢子とその同級生である昆虫生態学者の三沢、その二人が仕組んだ罠と見做した安斎は何としても生き延びるため、雀蜂との決死の戦いを始めるのですが・・・。


ツッコミどころ(後述)はあるものの、もう一度雀蜂に刺されたらお終いである安斎が山荘内にある材料を駆使してあの手この手で雀蜂と戦うさまはさすがに見どころではあります。
密室で雀蜂の大群に襲われるなんて、虫嫌いな方にはなお一層ホラーになることでしょう。
でも宣伝文句に書かれた予測不能のどんでん返しは、それを期待して読んでみただけに正直ガッカリでした。
あれだけ伏線があれば予測不能でもないし、「ふーん」で終わる程度。


【ツッコミどころ】

  • 体に付いたワイン洗い流すために安斎は休息を兼ねて浴室へ行くが、そこでも換気口からやってきた蜂と激闘。しかし眼鏡をしたままじゃレンズが曇ってそれどころじゃないはずだが。
  • 通常、11月下旬の雪が降るような山の気候では蜂は活動できない。でも山荘内は暖房があるから活動できるらしい。主人公はわかっていながらも窓を開けて冷気を入れるより、あえて苦闘の道を選んでいる。
  • 夢子が山荘からいなくなった理由はわかったが、三沢と一緒に来た杉山の唐突な登場と会話がよくわからない。
  • 最後のどんでん返しのおかげで、勝手知ったるはずの山荘内でのバトルに矛盾が生じてしまった。

結局、閉ざされた山荘での雀蜂と激闘というプロットにラストのどんでん返しを活かすためにいろいろと齟齬が生じてしまったのかなと思われます。作品自体はとても読みやすかったですけどね。
amazonでも酷評のレビューが目立ちますが、やはり数々の名作がある著者だけに期待が膨らんでしまう分、見る目が厳しくなってしまうのかもしれません。

*1:山荘内はオイルヒーティングによる暖房があったという設定