13期・59冊目 『ドッグファイト』

ドッグファイト

ドッグファイト

内容紹介

物流の雄、コンゴウ陸送経営企画部の郡司は、入社18年目にして営業部へ異動した。担当となったネット通販大手スイフトの合理的すぎる企業姿勢に反抗心を抱いた郡司は、新企画を立ち上げ打倒スイフトへと動き出す。

物流トラック業界といえばブラックともいえる過酷な勤務であり、成り手は少なく高齢化が進み、ドライバーの平均年齢は42歳に達しているという。*1
その一方でネット通販最大手スイフトの宅配量は年々増加し、コンゴウ陸送においては全体の二割を占めるほど。
スイフト・ジャパンでは名古屋に一大物流拠点を築き、生鮮食品の当日配送を行うプロジェクトを立ち上げます。
仕入は大手スーパーの太陽堂と提携し、物流を担うのはもちろんコンゴウ陸送。
しかし、旨味があるのはもちろんスイフトで、コンゴウ陸送はチルド便を増やすためにコストがかかるし、人員の確保も難しく、はっきり言って儲けにはなりません。
車両を空荷で走らせるよりは何か荷物を運ぶ方がマシという風潮があり、利益が出ないままにスイフトとの取引量は増えていくばかり。
実はスイフト側としては、今回の生鮮食品の当日配送を機にシステムの接続も進め、もはや後戻りができなくなった時点で運賃の値下げを迫るつもり。
将来的にはコンゴウをスイフトの物流一部門のように扱う企みを持っていたのでした。


主人公である郡司はコンゴウ陸送経営企画部から現場を知るために営業部に異動し、スイフト・ジャパンのやり手女性幹部である堀田の上から目線の弁舌に圧倒される毎日。
ある日、帰郷した際に雑貨屋の跡を継いだ同級生の個別訪問販売を目にして、スイフトに対抗するための新しいビジネスモデルを思いつきます。
それは電話やネットを介して個々の商店から商品をピックアップして顧客へ届けるというもの。
物流を担うコンゴウならではのビジネスであり、過去に構築したシステムを流用できるし、トラックも大型でなくても良いから地元から普通免許を持つドライバーを採用できる。
コンゴウ側の出費は少なくて済むし、商店としても確実に売上となり、出かける足が無い年寄りにとっても助かる。
それはネット通販に押されがちだった既存のスーパーなどにも活用が期待できるというもの。
ただし、スイフトが推し進めるプロジェクトとは真っ向から対立することになるのですが・・・。


普段ネット通販を使っていますが、その便利さを享受しながらも、現場で働いている人々の事情までは考えが至らないものです。
いつしか送料無料を当たり前のように思っていますが、実際に運ぶ側からしてみれば、人件費やガソリン代、車両を含めた各種設備に費用がかかるわけです。
荷主やユーザーの立場が強いように見えるが、実際は物流会社なくしてはこのネット通販は成り立たない。そんな視点に立って考え直してみると、新たなビジネスモデルが見えてくるってわけですね。
物流会社から見る現代社会の問題や将来の懸念がわかりやすく書かれていて、特に地方では少子高齢化が進み、深刻な状況となっています。
そのための鍵を握るのはITだけじゃなくて、地域に根ざした対応なのだろうと考えさせられます。
物語はスイフトにいいように振り回されていた郡司らが起死回生の策を練って逆転していく様がとても胸のすく展開です。
気になった点としては、新たなビジネスがトントン拍子でうまくいきすぎたことでしょうか。
実際にはいろいろと細かい問題が出てきそうな気がします。
終盤はやや急ぎ過ぎた気がしました。

*1:作中のセリフより